「ゴールドが大きく上昇」
前回の筆者のブログは7月31日の「ゴールドは終わったのか?」というものでした。これを書いた頃のゴールドは4,000ドル近辺での取引になっていました。前回のブログの主テーマは、4,000ドル割れまでのこの下げは「おそらく将来になって振り返るとあの時は千載一遇の買いチャンスだった、となるのではないか」ということでした。(その理由はこの前回のブログを再読してください。)そして、その後ゴールドは4,000ドルから下がることはなく、大きく上昇、7月後半の4,000ドルからほぼ一ヶ月後の8月25日には4,696ドルとなんと700ドルに近い上げとなりました。4,000ドルは大底っぽいと筆者はいろんなところで書いたり喋ったりしていました。大底という見方は正しかったのですが、まさかこんなスピードで上げるとは予想していませんでした。そしてその上げも、8月28日のウォーシュFRB議長のタカ派的スピーチにより、4,400ドル台半ばへと反落という動きとなっています。その背景を考えてみたいと思います。

- 拡大
- (過去3ヶ月のゴールド)
「ゴールド急騰の背景」
1.4,000ドルが非常に固かったこと。
まずその大きな理由と思われるのが、4,000ドルが非常に固かったことです。ゴールドは6月後半に初めて4,000ドルを割り込みました。それから計7回ほど4,000ドルを割り、まだ戻すという動きを7月20日まで続けました。それだけ4,000ドルをトライしながら結局は完全に割り込み下に動くことはありませんでした。マーケットではFRBの9月の利上げ見込みが強まり、それを材料に短期投資家がゴールドを売りましたが、4,000ドルでことごとく跳ね返されています。その最大の要因は、金利など関係なしに4,000ドルが割安とみてゴールドを買っている長期投資家がいたことです。その最大の代表が中央銀行であり、その中でも中国人民銀行(PBOC)の買いが目立ちました。ゴールド価格が高騰していた2月までは毎月1トンしか買わなかったPBOCが3月5トン、4月8トン、5月10トン、6月15トンと価格の下落に応じて買いの量を増やしていることは、前回のブログに書きましたが、その後7月にはなんと20トンの買いとなりました。この中央銀行の現物買いが、4,000ドルでは相当に入っていたと感じます。彼らの買いは一方的な買いです。一方金利上げを呼んでゴールドを売っている短期投資家は、下落したら利食い、逆にいけば損切りの買い戻しと、短期的に買うことが決まっている売りとはその影響力は違います。
2.売りの最大の理由であったFRBの金利上げの可能性が大きく下がったこと。
ゴールドを売ってきた短期投資家の売りの最大の理由はFRBの金利上げ見込みにありました。しかし、このところの米経済指標は、金利上げに対しては逆の数値が増えてきました。7月の米雇用統計非農業部門雇用者数は市場予想の8万人増を大きく下回る2.3万人減という数字で、雇用に大きくブレーキがかかった結果になりました。またCPIは前年同月比で3.4%の上昇となり、これは6月の3.5%のよりも低い数字でありインフレは落ち着いているということになりました。これにより、9月の利上げ可能性が大きく低下、利上げを見越してゴールドを売っていた向きは、その前提が崩れたことにより買い戻しに動きました。
3.米財務省が超長期国債の買い戻し枠を倍増したこと。
そして、ベッセント財務長官が、超長期国債の買い戻し枠を従来の20億ドルから少なくとも40億ドルと2倍に引き上げることを発表しました。これは流動性を高め、長期金利の上昇圧力を和らげるという目的での政策です。しかしこれは、金利の上昇を抑えるためにより多くの資金をマーケットに供給するという意味であり、ゴールドにとっては当然の如くに上昇要因となりました。
4.米国連邦債務残高が40兆ドルを超えたこと。
そしてそのタイミングで米国の連邦債務が40兆ドルを超えました。2020年に20兆ドルを超えた米国の債務は、わずか5年で2倍になりました。著名な投資家であるレイ・ダリオは、米債を減らし、ゴールドとビットコインに資金を15%まで入れるべきだと警告を発しました。米国債務危機は早ければ3年以内に現実になるだろうと。これはまさにフィアットマネーの代わりに長期的にハードアセットであるゴールドを持つべき理由です。米国のみならず、世界のほとんどすべての国がどんどんお金を借りて、どんどん使って、その債務の後始末は子供や孫の世代でなんとかしてもらえばいいというまさに無責任な財政を行っています。このような経済状況では何にもその価値を頼らないハードアセットであるゴールドを持っておくべきでしょう。この長期的な理由にマーケットが反応し、ゴールドは上昇しました。
「7月末からのゴールドマーケットの雰囲気の変化」
7月末のゴールドは4,040ドルでした。それからここまでの約3週間、ゴールドは4,600ドルまで13.8%の上昇。その間の投資家の買いは、ETFで81トン、CMEで80トン。ほぼ同レベルの買いが入っています。両方で約160トンものゴールドが買われたことになります。7月末までとそれ以降では投資家のゴールドに対する態度は一変しました。ここまで説明したように、ゴールド売ってきた短期的投資家の売りの大前提だったFRBの金利上げの可能性が、弱い米国経済指標によって大きく変わってきており、彼らの前提が崩れたことが最大の要因。
そして財務省による超長期債買い戻し増額の発表と連邦債務40兆ドル超えが、通貨の価値下落の加速につながるというファンダメンタルズからの買い理由が拍車をかけたと言えるでしょう。

- 拡大
- (ゴールドETFの残高の動き)

- 拡大
- (CMEの投資家のポジション)
「ウォーシュFRB議長のタカ派サプライズ」
これまではっきりとした態度を示さなかった議長だったので、総体的な話になるのでは、とマーケットは予想をしていましたが、実際には非常にタカ派的に具体的な発言となりました。彼はインフレとの戦いが中央銀行の最も重要な仕事だとして、今後の利上げに含みを持たせるものとして、これまでの経済指標が利上げを止めるようなものではないという判断をにじませました。これはマーケットにとっては大きなサプライズとして受け止められ、ゴールドは4,600ドルから4,450ドルまで150ドルもの大きな下げとなりました。
FedWatchの9月の利上げ予想も、利上げ確率が、前日までの35.4%から57%まで大きく上昇しました。しかしこのサプライズで売られたのはゴールドとシルバーそしてビットコイン。株価はほとんど変わらず。売られたのはここ一ヶ月急騰したものでした。その反動による売りと考えていいでしょう。そういった意味ではこの下げは当然あるべき調整の動きと考えます。

- 拡大
- (FedWatch : 9月の利上げ確率)

- 拡大
- (8月最終週のゴールドの動き)
「米国マネーサプライの増加」
米国の連邦債務の40兆ドル超えとほぼ同時に、米国のM2マネーサプライは7月には$102.8billion増加して$23.33trillionとなりました。これは27ヶ月連続の増加です。2000年から年平均で6.3%、$700billionのペースでマネーの量が増えています。短期的な相場の動きに惑わされることなく、今こそハードアセット=ゴールドを持っておくべきときだと考えます。

- 拡大
- (米国M2とゴールドの歴史的関係)
以上


