2025年は貴金属にとっては過去例を見ないほどの素晴らしい年でした。筆者は1986年からこのマーケットにいますが、これだけの上昇率になった年は今年以外には記憶にありません。今年はそれほど特別な年でした。この記事が今年最後になると思いますが、読者の皆様今年もありがとうございました。この原稿を書いている12月半ば現在、ゴールドは年初から63%、パラジウム88%、プラチナ114%、シルバーにいたってはなんと127%も上昇しています。

(貴金属年初来パフォーマンス)
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(貴金属年初来パフォーマンス)

今年の貴金属の上昇は他の資産と比較しても圧倒的でした。米株(S&P500)は13%、日経平均は28%、ビットコインにいたってはマイナス8%です。なぜ貴金属がこれほどまでにダントツなパフォーマンスとなったのでしょうか。各メタルでその背景を振り返ってみましょう。

(各投資資産の今年のパフォーマンス)
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(各投資資産の今年のパフォーマンス)

「2025年の回顧」

「ゴールド」
・ドル建てゴールドの2025年の動き

年初2,600ドルから始まったゴールドは次々と歴史的高値を更新し、10月21日には4,381ドルをつけて、この原稿を書いている12月21日現在、これが歴史的高値ですが、現在4,337ドルであり、あと50ドルで新たな高値というレベルです。年内にふたたび高値更新してもおかしくない状況だと言えるでしょう。年初2,600ドルから4月の3,500ドルまでの上げは、トランプ政権の成立、その後の関税戦争による、特に中国の投資家による上昇でした。当時中国の取引所のゴールド価格はロコ・ロンドン・ゴールド価格よりも200ドル近いプレミアムとなっていました。しかし年後半の9月からの3,400ドルから4,381ドルまでの上げは「(ゴールドを)持たざるリスク」を意識した欧米と日本の投資家の買いであり、ゴールドETFの残高が急増しました。一方中国の価格は4月とは対照的にディスカウントとなり、年後半の上昇は中国ではなく、欧米日本の買いであることが推測されます。

(ドル建てゴールド:年初来)
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(ドル建てゴールド:年初来)

・円建てゴールドの動き
今年は円安とゴールド高が同時に進み、二つが相殺するような動きにはならず、円建てゴールドもドル建てゴールドとほぼ同じく今年は大きく上昇しました。ほぼ一直線のような上げとなり、年初13,000円台前半から、現在はなんと22,000円を超えました。税込み小売価格ベースでは24.000円を大きく超えました。当然円建ても今年は歴史的高値の更新を続けており、現在の歴史的高値は22,061円となっています。

(円建てゴールドとドル円:年初来)
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(円建てゴールドとドル円:年初来)

「ゴールドの動きの背景」
・ドル離れからの中央銀行の買い。(一年通じて)
・トランプ政権関税戦争による、中国個人投資家の買い。(SGE & SHFE、年前半)
・FOMO(Fear of Missing Out:持たざるリスク)からの機関投資家、ヘッジファンド、個人投資家の買い。(ゴールドETF、年後半)
・インフレ・円安からの日本の個人投資家の買い(現物、ゴールドETF、先物、一年を通じて)

「シルバー」
・2019年から続いた供給不足、NYへの現物輸送、シルバーETFでのメタルの紐付けにより、地上在庫がほぼ枯渇。1ヶ月リースレートが一時40%まで急騰、現物不足を背景に投資家の買いが盛り上がり、金銀比価が100対1から64対1へ急降下。ゴールドと違い、需給というファンダメンタルズからの上げ。

(ドル建てシルバー:年初来)
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(ドル建てシルバー:年初来)
(円建てシルバー:年初来)
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(円建てシルバー:年初来)

「シルバーの動きの背景」
・トランプ関税によるCME先物の大幅なプレミアムのためにロンドンからNYへ現物の移送。(年前半)
・2019年から続く供給不足を補ってきた地上在庫のロンドンアカウントの枯渇。CMEへの移送とシルバーETFによるロコロンドン紐付けのための在庫減少。
・需給からの個人投資家の買い。歴史的高値更新によるさらなる投資家の買い。
・米国によるシルバーのクリティカルミネラル(重要鉱物)への指定。

「PGM」
・プラチナは5月に中国の輸入量の増加が注目され、それまで1,000ドルの天井を突破、上昇を開始し、11月の広州期貨交易所での上場が中国人投資家の買いを呼び、新たなラリーを引き起こしました。そしてその動きの真っ最中が現在です。
・この上場のタイミングと合わせるように、EUが自動車のEV化の目標を緩めることになり、それもまたPGM、とくにパラジウムの買いを誘いました。

(ドル建てプラチナ:年初来)
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(ドル建てプラチナ:年初来)
(円建てプラチナ:年初来)
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(円建てプラチナ:年初来)
(ドル建てパラジウム:年初来)
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(ドル建てパラジウム:年初来)
(円建てパラジウム:年初来)
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(円建てパラジウム:年初来)

「プラチナの動きの背景」
・中国のプラチナ輸入。世界の生産量170トンのうち100トンを中国が輸入。
ゴールドに対する圧倒的な割安さからの投資家の買い。
・広州期貨交易所のPGM上場(11月27日)からの中国投資家の買い。
欧州の2035年以降の新車販売をEVに統一するという政策の断念。

「2026年の展望」

「ゴールド:5000ドルを目指す動き」
・    米国の金融財政政策。インフレ3%の状況下での利下げ。
・    FRBの独立性の維持問題。政府による中央銀行のコントロールの可能性。
・    新興国中央銀行のドル離れ&ゴールド買い。
・    暗号資産業界のバックアップ資産としてのゴールド買い。

「シルバー:100ドルの可能性も」
・    解決見込みのない供給不足。
・    投資マネーの流入。

「プラチナ:2300ドルの歴史的高値更新も」
・    中国の現物買い(実需&宝飾)
・    中国の投資家の先物買い(広州期貨交易所)
・    EVからICEへの自動車の世界的な後退。

「パラジウム:1800ドルへ」
・    ICEエンジンの復調。
・    中国の投資家の先物買い。(広州期貨交易所)

以上