「9月下旬から10月へのさらなるゴールドの高騰」

 前回の寄稿は9月17日の「上昇が止まらないゴールド」でした。それからほぼ一ヶ月半の時間がたちました。言い訳でもありますが、ものすごく忙しくなりました。それはゴールドが上がりつづけたからです。

 

前回ゴールドは3,700ドル近辺であったのですが、10月8日には4,000ドルを超えて、そこからちょうど一ヶ月後の17日には4,300ドルを超えました。前回、「年末には3,800ドル程度までの上昇は十分あり得るのではないか」と書きましたが、その予想を遥かに超えるスピードでゴールドは上昇、10月20日には4,381.20ドルをつけてそれがこれまでの歴史的高値となりました。

(年初来のゴールドとドルインデックスの動き)
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(年初来のゴールドとドルインデックスの動き)

また円建てゴールドも同じ10月20日には21,227円まで上昇、2万円を大きく超えました。「おそらく年内に2万円に届くでしょう。」と前回書きましたが、年内どころか10月13日には2万円を付けました。

 

税込み小売価格は9月29日に初めて2万円を超え、10月21日には23,370円の最高値をつけました。小売価格の2万円超えは非常に大きなインパクトを与えたようで、テレビ、ラジオ、Youtube、雑誌、新聞などあらゆるメディアから連絡があり、筆者はメディア対応に連日追われることになったのです。

 

なぜゴールドが上がっているのか、そしてこれはバブルなのか、などなど、ほとんどの番組では同じような質問に答えることになりました。


3,700ドルまでの上昇の理由は、前回の寄稿を参考にしてもらえればいいのですが、そこから一ヶ月でのほぼ4,400ドルまでの上昇の背景をまず解説しましょう。

 

年初から4月までの2,600ドルから3,500ドルまでの上昇の背景は、非常にざっくり言うとトランプ政権の関税によって引き起こされた不安による世界中の投資家の安全資産としてのゴールド買いであったと言えるでしょう。特に米国と関税の上げ合戦を繰り広げた中国の個人投資家の買いは激しく、中国の現物取引所である上海黄金交易所やゴールド先物を上場している上海期貨交易所のコントラクトは、世界標準のゴールド価格(Loco London Gold)に対して100ドル以上のプレミアムとなった。中国の個人投資家がそれだけゴールドを買ったということです。この買いは4月のいわゆるリベレーションデイで最高潮に達しました。中国の買いがゴールドの上昇を牽引したと言っていいでしょう。

 

ところが9月以降の急騰の背景は中国の買いではありません。上海ゴールドはこの期間はロンドン・ゴールドよりも安いディスカウントとなっていました。9月の上昇の背景にあったのは、欧米及び日本の買いでした。日本では歴史的高値の更新にもかかわらず、地金商では投資家の買いが続き、スモールバーは各社で売り切れとなり、その生産が間に合わないことから、販売が中止となりました。これはゴールドが無いというわけではなく、1キロバーや500gバーなどは買うことができます。ただスモールバーの生産がその需用に間に合わないということです。現在各社はフルキャパで生産しています。ある程度在庫が溜まったら販売を再開するということです。

 

日本の投資家のゴールド買いは現物のみではありません。ゴールドのETFは現物の証券化が間に合わず、既存証券が大きく値上がりし、ゴールド現物に対して大きくプレミアムとなり、大阪取引所ゴールド先物もその理論値を遥かに超えた価格で取引されました。日本人は昔からバーゲンハンターと呼ばれて、下がったら買う、上がったら売るという投資性向で有名ですが、今回の歴史的高値での大きな買いの盛り上がりはこれまででは考えられないことでした。

(年初来の上海ゴールドとロンドン・ゴールドの値差の動き)
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(年初来の上海ゴールドとロンドン・ゴールドの値差の動き)

この買いはいわゆるFOMO, Fear of missing out と言われ、「ゴールドを持たざるリスク」が意識された結果、欧米と日本の機関投資家と個人投資家両方からゴールドの買いが一気に入ったということなのです。

 

年初来のゴールドのパフォーマンスは50%を超えています。株式指数の中でも一番よいのは日経平均で33%、ナスダックは19%、S&P500に至ってはわずか13%とゴールドに投資していれば得られた50%得られたのに米株だけであれば13%の上昇しかとれなかったということです。当然彼らの仕事が絶対利回りを取るべき、というものであればゴールドへの投資はもはや必須と言っていいでしょう。特に目立ったニュースが無い中の急騰は、そういった持たざる者の買いがゴールドの価格を上昇させたのです。

 

9月のFRBの利下げもその流れを加速したと言えるでしょう。まさに買いが買いを呼ぶ展開となり、9月から10月でゴールドは1,000ドル近くも上げる大きな上昇となったのです。

(貴金属の年初来パフォーマンス)
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(貴金属の年初来パフォーマンス)

「10月21日歴史的高値からの急落」

10月21日にゴールドは4,381.21ドルを付けました。そこでおそらくは短期筋の利食いが出たのでしょう。そのきっかけになったのはトランプ政権の対中国関税でのTACOトレードでしょう。この利食い売りが、短期筋の売りを一斉に呼び起こし、ゴールドは一週間で3,886ドルまで高値からほぼ500ドルの急落となりました。

 

その後現在は4,000ドルを挟む動きとなっていますが、今年に入ってからの最大の調整局面となっています。これでゴールドの上昇が終わりでしょうか?筆者はそうは思いません。年初2,600ドルから4,400ドルまでの1,800ドルもの上昇において、今回の500ドルの下落は、本来であればもう少し早くくるべきであった調整局面でしょう。

 

筆者の39年間のゴールドマーケットでの経験でも初めてである今年の一方的なそして大きな上昇を考えるとようやく、というのが素直な印象です。おそらくはしばらくはこの調整局面は続くでしょうが、弱い短期筋のポジションが整理されればふたたび上昇となるであろうと思います。これまでの一方的な上げ、連日の歴史的高値更新で買えずにいた長期投資家には絶好の買いチャンスになると思います。3,900-4,100ドルくらいのレンジがしばらく続くのではないでしょうか。だとすればその間に下がった時にはゴールドのポジションを追加していく、くらいの気持ちでいいのではないでしょうか。

以上