前回このコラムでシルバーに関して書いたのは5月でした。それからほぼ半年が経った今、シルバーが現在どうなっているか、今後の見通しを書いてみたいと思います。
前回5月のコラムは、ちょうど年に一回発表となる「World Silver Survey 2025」の発行を受けて、需給面からの見通しを書きました。その中では当時金銀比価が100対1であったシルバーの割安さを解説し、割安であるシルバーを買っておくチャンスだとしました。当時のシルバーは32.5ドル近辺、シルバーはその後54ドルまで上昇し、リースレートが一時急騰しました。シルバーの動きはまさに前回書いたとおりの動きとなりました。

(金銀比価とシルバー価格の動き:過去20年)
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(金銀比価とシルバー価格の動き:過去20年)

1.    今年のシルバーのパフォーマンス

今年のシルバーの年初は29ドルから始まりました。そしてこの原稿を書いている11月21日のマーケットクローズはちょうど50ドル。大きく上昇しました。10月には54.47ドルまで上げて歴史的高値を大きく更新しました。11月20日現在、貴金属4品の中でも最もパフォーマンスが高いのがシルバーです。もちろん、株価、暗号資産、その他の金融商品すべての中で今年最も上がったのがシルバーなのです。ちなみに全金融商品の1位から4位まで、貴金属が独占しています。シルバー72%、プラチナ66%、ゴールド55%、そしてパラジウム51%の順です。

(貴金属4品の年初来のパフォーマンス)
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(貴金属4品の年初来のパフォーマンス)
(年初来のシルバーの動き)
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(年初来のシルバーの動き)

シルバーの上昇の背景は、ゴールドの上昇も当然ありますが、それ以上にシルバーはやはり需給の歪みがその大きな要因となりました。シルバーの金利であるリースレートが10月にオーバーナイトで150%というとんでもないレートになりました。要はロコ・ロンドンのメタルがほぼなくなったと言うことです。1ヶ月のリースレートも一時40%を超え,
それにより価格は急騰。借りれないなら買うしかないのです。30%払って借りるなら買ってしまえということになってもおかしくないのです。貴金属の貸借の基本である「ロコ・ロンドン・アカウント」のシルバーの在庫がほとんど無くなってしまったのです。
 

(シルバーリースレート一ヶ月物の年初来の動き)
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(シルバーリースレート一ヶ月物の年初来の動き)

2.    続く供給不足

そもそもロコ・ロンドン・シルバーは、シルバーの長年の供給不足を埋めるために過去少なくとも5年にわたって減少傾向にありました。これは前回のレポートに書いた通りです。それを加速させたのが今年前半のトランプ政権が振りかざした関税問題です。米国のCMEでは、Loco London Silver価格をはるかに超えるプレミアムでシルバー先物が取引され、トレーダーたちは、ロコ・ロンドン買い、CME売りという裁定取引を大量に行い、その先物売りにデリバリーするためにロコ・ロンドンからCME倉庫へシルバーを大量に輸送しました。それにより、ロコ・ロンドン・シルバーはさらに減少。そしてシルバーETFにも投資家の買いが大量に入りました。世界のETF総量の80%はロコ・ロンドンのシルバーをその現物として紐付けています。それにより、実際に存在するロコ・ロンドン・シルバーの大部分はETFに紐付けされており、実際に使えるシルバーはほとんどなくなるという状況になりました。それに加えて、インドの大量な現物買いも火に油を注ぎました。CMEへの移送とETFによる紐付け、そしてインドの買いにより、ほとんど使えるシルバーがなくなった結果が、貸し手のいなくなったマーケットであり、そのためリースレートが急騰し、価格も急騰、45年ぶりの高値更新という結果となったのでした。
 このロコ・ロンドン・シルバーのリースレート急騰により、今度はニューヨークのCME倉庫からLoco Londonへとシルバーが逆流することになりました。それにより、シルバーのリースレートは4%まで戻り、少なくともLoco Londonのシルバーにある程度の流動性が戻ったということでしょう。しかしこれはシルバーの供給不足という根本的な問題が解決したわけではありません。在庫の偏りが訂正されただけであり、供給不足はそのままです。

(CME倉庫シルバー在庫の月次変化:Metals Focus)
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(CME倉庫シルバー在庫の月次変化:Metals Focus)
(Loco London Silver のアカウント残月次変化:LBMA)
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(Loco London Silver のアカウント残月次変化:LBMA)

3.    シルバー今後の見通し

メタルズ・フォーカスの最新のレポートでは、シルバーはまた来年も供給不足が予想されています。これで8年連続の供給不足となり、Loco London Silverのアカウント残もまた減少となると思います。この現物不足の状況が長引けば長引くほどふたたびリースレートが上昇し、価格もまた歴史的高値を目指すことになるだろうと思います。来年には60ドルも十分にあり得るのではと考えます。

以上