今年もまた5月第三週のロンドン・プラチナ・ウイークに弾丸スケジュールで参加してきました。この季節のロンドンは最高なのですが、今年は20日火曜日の朝ロンドン到着、木曜日朝には発つという実質二泊の日程でした。多忙のため仕方がなかったのですが、ちょっともったいないですね。
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- 「ロンドン・プラチナ・ウイーク」
20日の朝にロンドンに入り、World Platinum Investment Council (WPIC)のオフィスで打合せ、その後はLPPMによるセミナー、そしてそれに続くカクテルパーティーに出席。前日月曜日にWPICによる「プラチナ四半期レポートQ1 2025」が発表されました。この発表直後からプラチナが急騰しました。その原因になったこのレポートの中身をみてみます。
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- (プラチナ年初からの動き)
「WPIC Platinum Quarterly Q1 2025」
5月19日に発表されたこのレポートの直後からプラチナが急騰しました。990ドル台から一挙に1,000ドルを超えて一時1,102.5ドル(5月24日)まで上昇。このレベルはちょうど2年ぶりの高値となっています。これまで長い間プラチナは900-1,000ドルのレンジでの動きが続きました。このレンジの中で900ドルに近づいたら買い、そして1,000ドルに近づいたら売るというレンジ・トレーディングをしてきた投資家は多いと思います。今回のこのレンジ越え上昇の背景となったのがまさにこのレポート。プラチナの上昇の背景となったと思える部分をみてみましょう。
1. プラチナ3年連続の供給不足見込み
2023年27.9トン、2024年30.9トン、2025年30トンと供給不足が3年連続となる見込み。今年はトランプ関税がどのような影響をプラチナに与えるのかは予断を許さないところですが、WPICはその影響は限定的だとみています。NYの先物市場が関税の恐れによって大きなプレミアムとなり、現物が大量にNYに持ち込まれ、投資需要が伸びましたが、産業用需要の減少と相殺する形になっています。
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- (2014年からの各年の需給バランス)
2.プラチナ供給:前年比10%の減少
2025年の大きなテーマは供給リスク。1Qの鉱山供給は13%のマイナスとなり、コロナでのロックダウン以降では最大の減少となります。これは価格が低いために鉱山会社が生産を増やすことができないという構造的な問題であるといえます。

3.プラチナ需要:10%の増加
一方需要は前年比10%増となり、特に投資需要が米先物市場と中国の現物需要がそれを牽引しています。

4.需給全体では3年連続の供給不足に

5.プラチナ地上在庫は無くなりつつある=リースレートの高止まり
3年連続の供給不足によりその不足分をカバーしていた地上在庫の減少が続いています。2025年末には67トンまで減少し、これは約3ヶ月分の需要をカバーするだけの量になります。そしてこの状況はこれからも続き、2028年には地上在庫はほぼ無くなると見られています。このところプラチナのリースレート(金利)は他のメタルよりも極端に高い状況が続いています。1~3ヶ月は12%を越えている状態です。ゴールドの1ヶ月ものは0.1%を下回るレベルです。これは明らかにプラチナの流動性が逼迫しているということです。これだけでもプラチナが上昇してもおかしくない状況だと言えます。

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- (貴金属の金利(リースレート))
6.注目すべき中国の買い
ゴールドと同じくプラチナも中国の影響がどんどん大きくなっています。特にこれまでは価格に敏感であり、プラチナの価格が下がれば中国の輸入が増え、上昇すればそれが少なくなるという価格弾力性が高い輸入量でした。ところが今年に入ってからは、特に価格が下がっていない場面でも大量に輸入しています。現地の話を聞くと、ゴールドが余りに上昇したために、個人投資家がプラチナを物色しているとのことです。それが輸入量にも表れているようです。

7.900-1,000ドルレンジを完全に越えられるのか?
これまで長らく続いてきた900-1,000ドルのレンジ。前回ここを大きく抜けたのは昨年の5月、ちょうど今年と同じようにプラチナウイークの時期に上がったことになります。2023年も同様でした。しかし昨年も一昨年も1,000ドルを超えたレベルは長続きせず、結果的にはまた900-1,000ドルレンジに戻ってしまいました。今年は過去2年とは違うのでしょうか。地上在庫の減少とリースレートの高止まりはその可能性を示していると思います。ゴールドの三分の一というこの安さもまた投資家がプラチナに投資するというのに十分に魅力的な点だと思われます。今回はプラチナがその取引レンジを100ドル上げてもおかしくないと考えます。
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- (過去5年間のプラチナの動き)
以上