ちょっと遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいします。
2025年に入りトランプ政権が正式にはじまりました。
その就任式以前からマーケットをかき乱していますが。今回はトランプ大統領が貴金属マーケットにこの一ヶ月与えている影響、異常事態を解説したいと思います。
「トランプ関税が揺さぶるマーケット」
1月20日の就任以来、トランプ劇場がマーケットを揺るがせています。彼の一挙一動にマーケットが右往左往する、またそんな時代が来たと思うと正直うんざりするというのが筆者の偽らざる気持ちです。正式な就任前からマーケットはそんな右往左往が始まっています。そんな中でも貴金属マーケットが最も大きく反応しているのは、「Tariff!」と大統領が叫んでいる「関税」政策です。実質的には関税による税収増よりも、これを脅しの材料に使い、交渉相手から自分の方に有利な譲歩を引き出すというまさに「ディール」をしようとしているようです。
それはさておき、この関税政策が果たして貴金属にも及ぶのかどうか、業界では疑心暗鬼に陥っています。その典型的な結果として、「Dislocation」と呼ばれる状況が顕著になって来ています。具体的にはCME先物の価格とスポットのドル・ゴールド為替であるLoco London Spot Gold Priceが大きく乖離するようになりました。Spot Loco LondonとComex のActive month(取引が集中する中心限月)とのスワップレート(値差)はEFP(Exchange for Physicals)と呼ばれ、基本的にはスポットから先物の決済日までのLoco London forward rateで計算することができます。ところがこの先物理論値と実際のEFPが大きく乖離した状態が続いています。1月現在のComexのアクティブマンスはFeb Contractでしたが、forward rateで計算したEFPはせいぜい10ドル前後のものが一時50ドルという大きなプレミアム、つまりスポットに対して先物が高すぎる状況となりました。この状況であればトレーダーはスポット買い同時に先物を売ります。スポットをフォワードで先物と同じ2月末まで決済を伸ばし、現物をCMEに持ち込み渡してしまえば20ドルから40ドルくらいの利益をほぼリスク無しに得ることができます。
普通ならあり得ない状況ですが、もしゴールドに関税がかかることになれば、その裁定取引の根底が崩れることになります。米国へ輸出するゴールドのコストがいくらになるか関税分がわからないからです。
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- (Loco London Gold とComex Febの値差の動き)
筆者としては貴金属、とくにゴールドに関してはまず関税はかけないだろうと考えますが、それはやはりトランプ大統領、彼がどうするかは明瞭ではありません。
その疑心暗鬼がこの異常なプレミアムを生み出していると考えるべきでしょう。しかし、まだその関税に関する具体的なことは決まっていません。
そのため12月あたりからこの異常なプレミアムのComex Febを売り、スポットを買う。そしてComexにデリバリーするための現物をComex倉庫に輸出するというオペレーションをトレーダーたちは積極的に行ってきたのです。関税が決定されるまでは、リスクフリーでこのプレミアム分が利益となります。1オンスあたり何十ドルもの利益が取れることなど普通ではあり得ないことです。その量は12月から300トンを越えています。そして2月に入り実際のdelivery noticeが出されており、この原稿を書いている時点、たった2日で126トンものデリバリーが確定しています。この量はスウェーデンの国家準備に等しい量です。
そもそもこれだけのプレミアムの先物を買って、それを現受けするということ自体が不思議です。素直に現物を買うより40ドルも高い先物を買うということは、それが現物になった瞬間に40ドル損をするということになります。本当にゴールドを買いたいのであれば、素直に現物を買えばよいのに、です。
これだけのプレミアムでこれだけ大量のゴールドを一体誰が現受けするのか、筆者としてはそれが不思議でたまりません。
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- (Comex倉庫のゴールドの在庫量の変化)
「CMEのプレミアムがゴールド価格を引き上げる」
これだけのゴールドがCMEに集まることによって、Loco London goldが減少します。それはゴールドの金利であるリースレートの上昇に繋がっています。(ゴールドの貸し借りは基本的にLoco London gold accountで行われます。東京にゴールドを持っていても貸し借りの枠組みはありません。)
今年に年初のゴールドリースレート1ヶ月物は0.08%であったのが1月後半には4.5%まで大きく上昇しました。ゴールドは金利を生まないといわれるほど低金利なゴールドにとっては、非常に希な高金利だと言えます。それだけロンドンアカウントのゴールドがタイトになっているのです。
物の逼迫は価格上昇に繋がるのは火を見るより明らかであり、それが年初来、ゴールドが2,600ドルから2,800ドル超えまで上昇している背景にあります。
結局、これらの動きの源泉はトランプ政権の今後に横たわる不安ということになり、この世界ではゴールドを保有しておくべきだという動きになっているということでしょう。
2025年1月だけでゴールドはドル建てで200ドル、円建てで800円も上昇しました。もちろんどちらも昨年10月末につけた歴史的高値を大きく更新しています。
これを書いている2月4日、金の果実1540も13,265円の上場来高値をつけています。
今年もまた今後まだまだゴールドは上昇していくと私は思います。
金の果実は売らずにホールドがベストでしょう。
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- (年初来のドル建てゴールドと長期金利の動き)
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- (円建てゴールドとドル円の年初来の動き)
以上