NY金が、2,300ドルを割り込んだ。といっても、歴史的高値圏であることに変わりはないが、2,500ドル目標に見慣れた眼には、「お、下がったな」との感覚がある。
いずれにせよ、これまでの上昇スピードを思えば、健全な調整局面の域を出ない。
円相場も極めて重要なファクターで、円建て金価格には上昇圧力をかける。
特に、本日はFOMCがあり、ここで円安加速のシナリオも視野に入る。


如何に、昨日何が起きて、今日どうなるか、について、その背景を詳述する。
題して「自信を無くしたパウエル氏の発言、介入当局に最大級の試練」


本日NY市場後場に米国の金融政策決定会合であるFOMCが、二日間の討議を終え、声明文発表とパウエルFRB議長の記者会見が開催される。
パウエル氏の発言次第では、160円再突破も視野に入るので、日本の介入当局は、今晩徹夜の臨戦体制で、必要とあらば、ただちに対応することになろう。
なにゆえに、パウエル発言が、円安を加速させる可能性があるのか。
話は、前回のFOMCに遡る。
そこでは、声明文に「FOMCは、インフレが持続的に2%ターゲットに向かうことに、より強い自信を持つことが出来なければ、利下げ実行は適切ではない」と書き込まれた。
ところが、その後、4月16日に、パウエル氏は、「最近の経済データにより、明らかに(インフレ目標達成の)自信が持てなくなり、その自信を得るまでに、いまだ時間がかかる」と、あっさり見解を変えたのだ。
年初は年7回の利下げを3月から始めるとの予測を織り込んでいた市場にとっては「爆弾発言」であり、今や、利下げ予測の主流は12月に1回、「利上げ再開」の可能性さえ20%を超す。


では、前回と今回の間になにが起こったのか。
それは、3か月連続となる米インフレ指標の上振れだ。
1回なら、季節調整による統計上のノイズで済ませることが出来た。
2回続くと、市場は疑心暗鬼になった。
それが3回も続くと、もはや、市場は、インフレが想像以上に粘着質であることを認めざるを得ない。


そこで、今回のパウエル議長記者会見での質問は、この点に集中して、同氏が、どのような英語の形容詞・副詞を使って語るかが、市場に大きな影響を与えることになる。
「利上げの可能性もあるか」と聞かれ、万が一にも「議論のテーブルにないとはいえない」などと述べれば、円相場は即160円再突破という動きとなろう。
NY金は失望して更に下がるであろう。
それは、極論としても、「インフレ退治の道のりは凸凹と語ってきたが、その凸凹はより激しくなる可能性がある」とでも語れば、市場は、12月に1回だけの利下げをメイン・シナリオとして受け入れざるを得ず、日米金利差は概ね変わらず、円安トレンドが長期化することを覚悟せねばなるまい。
日本側の介入当局も、FRB由来の円安になると、世界のマネーの流れに日本だけが逆行することになり、介入効果も、円安の速度を多少なりとも遅らせる程度となろう。


実は、30日のNY市場で、FOMCのリハーサルともいえそうな「円座」の出来事があった。
FRBが賃金インフレを計るうえで重要視している雇用コスト指数が上振れ、前回より1.2%、前年比では4.2%上昇したのだ。
円相場は、157円前後から、157.50程度まで円安に振れたのだ。
NY金は急落した。
FOMCを通過しても、今後、米重要経済指標発表のたびに、介入当局は投機筋を封じ込まねばならない。
いわゆる、もぐら叩きとなるリスクがあるのだ。
円安をめぐる攻防が長期化する可能性も考慮しておくべきであろう。