前回、ロシアと金について書いたが、週末に新たな展開があった。
G7でのロシア産金の禁輸措置だ。
ロシアの年間金生産量は330トンで世界第二位。
中国が2トン差で一位。
ただ、パラジウムと異なり、金鉱脈は米国、オーストラリア、カナダ、ペルーなど所謂「環太平洋火山帯」に広がるので、ロシア産の輸出が止まっても、生産代替の余地は充分にある。
ロシアの生産シェアは10%程度。
ロシア抜きでも金市場は困らない。
金価格高値圏で実需も少ない。
G7としては、アナウンスメント効果狙いか。
欧州は金に関して、ロシアとの関係が深いので、エネルギー関連から金まで米国の言いなりに妥協することに抵抗感もある。


更に、既に、経済制裁によりロシアは外貨決済から隔離されたので、ドル建て国際商品の金の市場売却や輸出は出来ないので、事実上、禁輸同然となっている。
金業界もロシア産は既に流通している在庫以外は、取り扱いを事実上自粛中だ。せいぜいG7としてはアナウンスメント効果狙いか。
気が早い投資家は、すわ、金上昇かと色めき立っているが、商品先物業者のセールストークにも使われそうなネタゆえ、ご用心あそばせ。


ありうるシナリオとしては、親ロシアの中国インドが、世界一位二位の金消費大国ゆえ、原油同様に、ロシア産を市場外の直接相対取引で買い受けること。
ロシア側の立場では、国内生産量の年間330トンに、外貨準備としての2,298トンの公的金準備を輸出も出来ず、抱え込む成り行きになっている。
仮に、中国インドが、ロンドン市場経由で新産金を買う必要がなくなれば、金価格下落要因となろう。


なお、金禁輸には伏線があった。


https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB244WS0U2A620C2000000/


ロシア、スイスに金を輸出 「姿みせぬ買い手」の怪、という見出しで先週土曜日の日経でも報道されたのだが↑、
3トンほどの金がロシアからの輸入としてスイス通関統計で明らかになっていたのだ。
このような事例に反応してホワイトハウスが動いた可能性はある。


筆者は、個人的に、スイス銀行チューリッヒで、「貴金属ディーラーとしてロシアとも付き合え」と上司から指導されたことを思い出す。
深夜のチューリッヒのバーでウォッカ飲みつつ、金とパラジウムの売買交渉をロシア人の「友人」としたものだ。
この深い関係は今でもチューリッヒで続いていると知らされ驚いた。
スイスという欧州ど真ん中の小国は生きる知恵として、秘密銀行口座など、あえて「やばい」商売も国益重視で受けてきた歴史がある。
ウクライナ侵攻があっても、この関係が解消することはあるまい。
経験者の実感である。