先週金曜日の米消費者物価指数8.6%発表までは、今回6月と7月のFOMCで0.5%幅の利上げが、ほぼ確実視されていた。
しかし、同発表後に事態は急変した。唐突に0.75%幅利上げ説が市場に流れたのだ。
マーケットはハチの巣をつついたような大騒ぎになっている。
名門ウォートン・スクールのシーゲル教授やJPモルガンは1%幅利上げの可能性にも言及している。
そもそも誰が言い出したのか、未だに正確には分からない。
FOMC前のブラックアウト期間(参加者発言自粛期間)ゆえ、FRB高官が言い出したのではない。
ジェフリーズのアナリスト発言が記録に残っている程度だ。
その後、ゴールドマンサックス、JPモルガン、バークレイズ、ウェルズ・ファーゴなど大手金融機関が相次いで0.75%予測に切り換えた。
CPI発表前までは、インフレ統計にピークアウトの兆しが見られていたので、FRBにとってもサプライズであった可能性は否定できまい。
常々、パウエルFRB議長は「データ次第」「全てのFOMC会合がライブ」「会合ごとに決めるmeeting by meeting」などの発言でヘッジをかけていた。
それゆえ、想定外のCPIで利上げ幅が変更される可能性は充分にある。
最新のNY連銀消費者調査でも、家計が感じる向こう1年のインフレ期待が4月6.3%から5月6.6%に上昇したことが材料視されている。
そこで、民間のアナリストレポートやウォール・ストリート・ジャーナル、米国CNBCの報道で相次ぎ0.75%説が急浮上してきたと見られる。
市場では、パウエル議長が「インフレは一過性」発言に続き、またも見通しを誤ったのか、との意地悪な見解も聞かれる。
いずれにせよFOMC直前に、このような大きな金融政策修正予測が生じるのは異例中の異例だ。
かくして、日本時間明朝発表のFOMC声明文では0.75%利上げが明記されると見られている。
同時に発表されるドット・チャート(FOMC参加者の金利予測)にも、強い関心が寄せられる。
更に、パウエル議長記者会見が「くせもの」扱いされている。
前回の記者会見では、0.75%利上げの可能性について聞かれたとき「議論のテーブルにのっていない」と否定していたからだ。
QT(量的引き締め)についても今回は詳細な議論がなされるだろう。
そのうえでパウエル氏が、どのように受け答えしても、市場の疑心暗鬼は容易に消えないだろう。
短期投機筋がまず仕掛け、初期反応が出るだろうが、市場の主流のプレイヤーたちは、慎重に材料の消化に時間をかけるであろう。
そこで、第二波の反応が顕在化することになる。株価底打ちか本格弱気相場到来か。
金は1,800~1,900のレンジを抜けるか。
今回ばかりは、丁半博打の様相で、「市場に聞け」ということになる。
過剰流動性相場のときには「FRBには逆らうな」と言われたが、流動性圧縮相場に急転換するや「FRBを疑え」という姿勢に変化している。
それゆえ、ボラティリティは激しくなろう。
大手のファンドも、多くが現金ポジションを増やし、ポートフォリオリスクを減らして、今回のFOMCを待ち受けている。
それゆえ、ひとたび、一定の方向性に市場のコンセンサスが収れんすれば、かなり大幅な資産価格変動が見込まれる。
いつまでも現金ポジションを増やすだけでは、顧客からそっぽを向かれる。
とにかく動かねば資産運用の商売は成り立たない。
但し、視界不良ゆえ、普段は中期運用するファンドも、売買回転が速くなろう。
不確実性が極めて高い地合いだが、そのなかで継続するトレンドはドル高・円安と見られる。
米国政策金利(フェデラルファンド・レート)が年末までに4%に接近する可能性は未だ織り込まれていない。
それゆえ日米金利差の更なる拡大で140円も視野に入る。
そもそもドル・インデックスが105の高水準に達して更にドル先高観が根強い。
日銀が世界の主流に逆らってドル売り・円買いの介入に万が一踏み切っても、勝算は見込めまい。
日銀対ヘッジファンドのせめぎ合いに持ち込まれれば、それこそヘッジファンドの思うつぼとなりかねない。
円売りトレードはNY市場でも注目を「最も混み合うトレード」の一つとして注目を浴びているのだ。
なお、ビットコイン先物価格暴落で、追加証拠金支払い(マージンコール)のために金を売る所謂「換金売り」も目立ってきた。
一昨日の日経YouTubeセミナーでも、仮想通貨と金の関係について質問があった。
ビットコインはインフレヘッジをセールストークに使っていたが、今回の暴落で化けの皮が剥がれた感じだ。