コロナで買われる金、売られる金
コロナ・リスクをヘッジするために金が買われていることは言うまでもありません。
いっぽうで、コロナゆえ売られる金もあるのです。
経済危機が極限に達すると、人々はとにかく現金を選好するからです。世界の金買い取り店では、明日の糊口を凌ぐために、母から譲り受けた思い出の金のネックレスを泣く泣く売るというような、悲惨な事例が世界的に頻繁に見られるのです。
日本でも、従来は、古いデザインゆえ「箪笥の肥やし」となった金のネックレスを売ればいくばくかのお小遣い稼ぎになるという軽い気分で金製品を貴金属店に持ち込む事例がここ数年急増していました。
しかし、コロナ危機が勃発してからは、もっと切羽詰まった金製品の買い取り事例が見られるようになっています。特に、小規模店舗などの自営業では、とにかく現金での売り上げが「蒸発」しましたから、売れるものは何でも売って現金に換えるほどに追い込まれているわけです。
思い起こせば、ギリシャ危機の際にアテネを訪問したとき、郊外の地下鉄の駅を降りると、必ず、「金買い取り店」が2-3店、あったものです。当時、ギリシャで数少ない「成長産業」でした。
その頃に比較して、現在は、世界的に金買い取りのインフラが飛躍的に拡大されています。
金需給統計を見ても、価格が急騰した年には、年間金リサイクル量が急増しています。
例えば、2012年の年間金平均価格は1668ドルでしたが、同年の年間金還流量(二次的供給源)は1701トン。それが、2015年には年間平均金価格1160ドル、年間金還流量は1173トンに激減しています。
ざっくり言って、価格が1500ドルを超えると、金リサイクル量は級数的に増える傾向があります。
今年前半は、ロックダウンで金リサイクルの流れも止まりました。しかし、年後半、経済再開が進むと、これまで金製品を売りたくても売れなかった人たちが、待ちかねたかのように来店する可能性があります。
このような需給要因は、日々のマーケット・レポートに載るような量ではないので、目につきません。しかし、通年で見ると、1000トン以上の量に膨れ上がっているのです。その影響は、ボディーブローのようにジワリ効くものです。派手さがないので軽視されがちですが、筆者が今年の上値を控えめに見ている理由がここにあるのです。
写真は、アテネの金買い取り店。