今週市場の最大の注目点は毎年8月にワイオミング州の避暑地ジャクソンホールで開催される中央銀行シンポジウム。
今週後半に世界の中央銀行トップたちが集う。
市場の注目は、パウエル議長講演だ。
しかし、筆者は、今年の主役はドラギECB総裁と見る。
 

まず、パウエル氏講演だが、マーケットでは9月0.25%利下げを織り込み済み。
0.5%利下げ示唆なら、パウエル氏は市場から「真のハト派」の称号を与えられ歓迎されよう。
しかし、今のパウエル議長は四面楚歌の状況に置かれて多くを語れない。
まずトランプ大統領は、パウエル氏のことは「無能」とまで言い切るほどだ。
FRBより中国人民銀行のほうがましだ、とまで語る。
勿論パウエル氏は、政治的独立は死守の姿勢だ。
しかし、前任者イエレン氏は「あれだけ言われてはストレスにはなろう」と慮っている。

次に、パウエル氏率いるFOMC内部の結束が揺らいでいる。
3月時点では、利下げ賛成派と反対派がほぼ半々に割れた。
7月FOMCでは利下げ決定にあたり反対者が2名出た。
パウエル氏は、地区連銀総裁などFOMC参加者と多くの時間を割いて電話会議して根回しに余念がないという。
そして、最大の強敵はマーケットだ。
今年の展開は、市場が利下げ観測に先走り、結果的にはFRBが後手後手に回る結果になっている。
大統領、FOMC参加者、そして市場とパウエル包囲網が敷かれた。
発言の自由度は狭まっている。
 

代わって、主役の座を奪いそうなのが、9月末で任期を終えるドラギECB総裁だ。
19日にはドイツ連銀が、4-6月期に続き7-9月もドイツ経済マイナス成長の可能性に言及するレポートを出した。
マイナス成長が二期続けば、市場では「景気後退入り」の宣告を受ける。
更に、7月のユーロ圏消費者物価指数が前年比1.0増まで落ち込んだ。
ECBの利下げ(マイナス金利深堀り)と量的緩和再開を期待する声が市場では益々高まっている。
欧州ではマイナス金利の社債も加速度的に増えている。
発行体としては金利を払わず逆に受け取れるという資金調達は魅力だ。
しかし、米中貿易戦争の影響を見通せず、設備投資意欲は盛り上がらず、マイナス金利でも資金需要は活性化しない。
ジャクソンホールでは、このマイナス金利の効果・副作用についての議論が白熱しそうだ。
更に、ドイツがいよいよ財政出動との期待も高まり、金融政策緩和と積極財政のポリシーミックスが現実味を帯びる。
18日にはショルツ財務相が「2008・2009の経済危機で我が国は500億ユーロを失った。
今は、500億ユーロの財政出動が出来る」とぶち上げたのだ。
但し、同氏はSPD(ドイツ社会民主党)党首に立候補しており、政治的意図は割り引いて受け止めねばなるまい。
今年のジャクソンホール会議のテーマは「金融政策への挑戦」だ。
金融政策の発動余地が狭まり、その限界が指摘されるなかで、過度の金融政策依存への警鐘も鳴らされることになりそうだ。
 

そして、日銀だが、緩和に動けば副作用、動かなければ円高という状況が認識されており、注目度は薄い。
日本の名前が頻繁に出るのは、「欧州のジャパン化」との議論で「長期デフレ国」の事例として引き合いに出されるときばかりだ。
切ない。
 

市場はジャクソンホール待ちだが、19日には金利が反発して株価は上がった。
金利反騰の主要要因は米財務省が引き続き50年債・100年債発行の可能性を模索継続とウェブサイトで発表して、市場に伝わったことだ。米財政赤字が年1兆ドル突破に向かう時期に、低金利での超長期債発行は、財務省にとって魅力的だ。
しかし、その結果、30年債需要が減ることになるので、利回りが反発したのだ。
これを受けて、10年債と2年債の長短金利逆転は解消した。あれは、真夏の夜の夢だったのか。
前回の事例を精査してみると、僅差の逆転現象が断続的に続いていることが検証できる。
ジャクソンホールでも長短金利が本当に不況の兆しになるのか、についても賛否両論が交わされそうだ。

なお、ジャクソンホール会議では、中央銀行総裁たちが会場外で個別に会談あるいは立ち話をする例が多い。
ここで交わされる本音にもを市場は耳を澄ましている。
このジャクソンホール中央銀行会議は、金市場の視点でもビッグ・イベントだ。
世界の中央銀行の緩和姿勢が確認されれば、マイナス金利も含め低金利がまだまだ続くことになり、金利を生まない金にとっては持続性のある追い風となる。
いっぽう、マーケットの期待に反して、利下げは慎重に、というスタンスになれば、利下げを100%織り込んだ市場は、一気に巻き戻される。
金価格は現在1,500ドルを再び割り込み、案の定、過熱相場が一服している状況だ。
現在の上げ相場が継続するためには、一度は売り戻しの大波にさらされるほうが良いと感じる。
このまま上げが続けば、逆V字型のバブルで終わる可能性があるからだ。


なお、明日21日水曜日、午後1時頃から、テレ朝の「ワイド・スクランブル」にスタジオ出演。
テーマは「金」。この時間帯の番組ゆえ、初心者向けに面白可笑しくというノリになりそう(笑)
女性セブンの取材とか、一般メディアでも、金が話題になっている。