「プラチナ急落の背景と今後の見通し」

 

プラチナのまさに「セリングクライマックス」と言える一日が73日でした。

 

(ドル建てプラチナ1年)

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プラチナの下げが止まらずとうとう900ドルを6月半ばに割り込みました。

そこからもじわじわと下げ続け、まさに7月第一週に入り850ドルを割り込み、73日にはアジア時間に800ドルをも割り込む急落をみせました。

そしてそれに続く欧州時間帯に、なんと何もなかったように850ドルまで戻し、まさにこの一連の売りが「セリングクライマックス」でありました。

この73日の大きな動きは、プラチナマーケットのダイナミクスを考える上でとても参考になります。

そしてそれを理解する上ではドル建てのプラチナよりも円建てのプラチナで相場を追ったほうが適切です。

 

 

(円建てプラチナ:1年)

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(円建てプラチナ:10日間)

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円建てプラチナは3,000円まで下落して7月第一週を迎えました。

そしてこの3,000円という水準がそれまで、東京商品取引所(Tocom)でプラチナの先物ロングを維持してきた投資家の損切りラインであったようです。

まさにこの3,000円を割ったとたんに大きく下げているのが上記のチャートでよくわかりますが、ここで大量の売りがTocomから出てきました。

明らかにTocomの投資家ロングの損切り売りが発動されたのです。

その日の取引高は過去3年でも群を抜いて大きなものとなりました。

(↓のチャートの出来高が突出しているのが73日です。

そしてその日に取組高が大きく減っています。投資家ロングを売って手仕舞いをしたからです。)

 

 

(Tocom Pt 出来高(下段)、取組高、価格)

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この日Tocomの投資家が売りだしたプラチナの総量は約3.5トン。

円建てプラチナは3,000円から2,840円近辺まで大暴落、そしてこのTocom の売りは、裁定取引をしているトレーダーによりTocom買い/Nymex売りという裁定取引につながり、世界のマーケットに波及していきます。

ドル建てのプラチナは850ドルから一瞬800ドルを割り込み798ドルまで下落したのでした。

円建ての2,900円割れは20091月以来、そしてドル建ての800ドル割れは200810月、リーマンショックの急落以来のレベルとなりました。

そしてこの損切り売りが一巡すると、もちろん、それ以上このレベルで売りは消滅、すぐにマーケットは急騰し、その日のうちに円建てで3,000円、ドル建てでも840ドルまで戻しました。

まさに「人の損切りは買ってやれ」というそういうマーケットでした。

これが73日のプラチナ急落の背景です。

海外の相場解説では、この日のプラチナの急落の背景を的確に理解しているものは皆無でした。

米中の貿易戦争のせいにしているものが多かったですが、それではこの日のこの急落と急騰は説明できません。

73日のセリングクライマックスは、東京商品取引所の投資家の損切り売りによってのみ起こったという特殊な市場内部要因であったのです。

 

 

プラチナのファンダメンタルズは確かによくありません。

 

その最大の需要であるディーゼルエンジン車の主戦場欧州での不振。

二番目の需要である宝飾分野の不調、特に最大の需要国である中国でのプラチナ宝飾の伸び悩み。

米国の金利上昇による投資家の新興国離れからの南アランド安。

ドル高によるゴールドの下落

 

しかし、強材料となりえるの点もいくつかあります。

 

・  プラチナの世界の生産コストは約900ドルであり、現在の800ドル台はそれを大きく下回っている。

 

・  Nymex(New York Mercantile ExchangeTocomと並ぶプラチナの先物市場)の投資家ポジションが18年ぶりのネットショートに。投資家が売り越しに回ることは非常に珍しいことであり、これは内部要因的には非常に大きな強気材料。↓のチャートの下段はNymexの投資家ポジションですが、過去5年でもこれがマイナスになった例はありません。投資家がこれだけ弱気に傾いているのはほぼ前代未聞であり、逆にこれは大きな買いのエネルギー(ロングが潜在的に売り圧力となるのと逆です。)をマーケットが秘めているということになります。

 

 

(Nymex投資家ポジションとプラチナ価格)

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「結論」

Tocomのロングポジションの整理は行われた。振り返るとそこは絶対的な買い場であった。

プラチナのファンダメンタルズはよくない。すぐに上昇基調になるとは考えづらい。

しかし、マーケットは明らかに売られすぎであり、この市場要因での戻しの可能性は十分にある。

900ドルという生産コストを割り込んだプラチナは長期的保有を考えるのであれば魅力的なレベルである。

 

以上