前回のコラムで円建てゴールドの歴史的高値は近い将来にふたたび更新されることになるでしょうと書きましたが、わずか10日余りでまた歴史的高値を更新しました。
7月31日の午後11時前につけた9,023円が新しい歴史的高値となりました。
この円建てゴールドの新高値の背景の第一は円安の動きがあります。
日銀が7月の金融政策決定会合で、イールドカーブ・コントロールで、抑え込んでいた長期金利の上昇余地を0.5%から1%までに動かし、金融緩和策の修正を発表しました。
これを受けてドル円は138円から141円という乱高下という最初の反応となりましたが、10年金利が9年ぶりに0.6%を超え、日銀は長期国債の買いオペで市場に資金を供給、1%までの上昇余地を発表したものの、0.6%で金利を抑えるという行動に、マーケットは日銀の金融緩和姿勢自体は変わらないと受け取り、それによりさらに円安が進むという状況となり、この原稿を書いている現在は142円台後半まで円安が進んでいます。
今回の日銀金融政策の変更が、金融緩和策の根本的な変更とならなかったこと、そしてFRBが未だにタカ派的姿勢を崩さなかったことから円安の流れはまだしばらく続きそうです。

 

(ドル円と円建てゴールドの動き過去10年)
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(ドル円と円建てゴールドの動き過去10年)

一方ドル建てゴールドは1,950ドルをフロアとして堅調を維持、つまり円安の分だけ円建てゴールドは上昇したことになりました。
円建てのゴールドは過去10年で4,000円から9,000円と2.25倍以上となりました。
一方円は同じく10年間で1ドル99円から142円とその価値はドルに対して4割以上下げたことになります。


我々日本人が特に意識せずに抱えているリスクがこの「円の購買力低下」というものです。
世界でパンデミックに対する規制が緩まり、ほぼパンデミック以前と同じように海外旅行も復活しつつありますが、最近海外に行った人は身に染みてこれを感じたと思います。
筆者も昨年シンガポール、今年は香港2回、ロンドン、シンガポール、上海とパンデミックの間は行けなかった海外出張に積極的に出ていきましたが、これらの地域での物価の高さに衝撃を受けました。
実際に物価自体が上がっていることも確かですが、それ以上に円の購買力が大きく下がっているのです。
シンガポールドルは依然は1シンガポールドル65円から85円くらいのイメージでしたが、今は100円を大きく超えて107円近辺です。
107円で向こうのいろいろな価格を計算すると目の玉が飛び出るような価格です。
ラーメン一杯2,500円を超えます。
日本では多くの人が、「リスクは取りたくない」と日本円を銀行預金に預けることが最もリスクが無いことだと思っています。
しかしそれは大きな間違いです。
何もしていない、つまりほぼゼロ金利で銀行に過去10年間預けているだけでは、その価値は4割減少していたというのが真実なのです。


このリスクを回避するためにはそのための「投資」が必要なのです。
投資は利益を得るためにリスクを取るだけのものではなく、逆にリスクを回避するためのものでもあります。
円の購買力を回避するための方法としては最も直接的なのは円を外貨に換えるというものです。
つまり円をドルに換えること。
しかしそれ以上に日本人にとっての円のリスクヘッジとして筆者が考えるのは円建てゴールドの積み立てです。
金地金を買うという方法もありますが、スプレッドの広さや保管の煩雑さを考えると、金ETFを毎月決まった額を円で買っていく、つまり円をゴールドに換えていくというのがもっともコストエフェクティブなヘッジであると思います。
円安とドル建てゴールドの上昇のダブルの効用を取れる可能性があります。
そして、円をゴールドに定期的に換えると考えると、現在の歴史的高値も気にならないのではないでしょうか?
ポートフォリオにゴールドを組み込むと考えるのであれば、価格レベルは気にするべきではなく、機械的に積立をしていくのが最もよい方法だと考えます。
自分の資産を守るためにも、なるべく早く、そして長く金ETFの積み立てを続けるということをすべての人に勧めたいと思います。

                                            以上