先日The Silver Instituteより「World Silver Survey 2023」が発表されました。
貴金属の需給レポートでは、もっとも権威ある「Metals Focus社」が作成したものであり、業界の指標的存在だと言っていいでしょう。
ゴールドはGold Focus、PGMはPGM Focusという名前で毎年発表され、シルバーはこのWorld Silver Surveyとなっています。
ちなみにシルバーは4月に、PGMは5月半ばにロンドン・プラチナウイークに合わせて、ゴールドは6月に発表されました。

 

(シルバーの需給表:トン、2023年は予想)
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(シルバーの需給表:トン、2023年は予想)

今回はこのSilver Survey2023年の内容とそこから考えられるシルバー価格の行く末を考えてみましょう。
まず最大の注目点は2022年は大きな供給不足であったことです。
7,393トンという供給不足は確認できる史上最大の数字です。
そして、より大きな驚きは、これだけの供給不足にも拘わらず、価格が大きく上昇するどころか、逆に前年2021年にくらべてLBMAシルバー価格の平均は14%低い21.73ドルとなったことです。
しかし今年に入ってシルバーには見直し買いが入り、一時26ドルまで上昇しました。
その後6月半ば現在23.50ドル近辺にあります。ゴールドと比べて安すぎたシルバーに訂正の動きが入って来ているのは確かです。
一時90を超えていた金銀比価も80対1まで戻しています。

 

(ドル建てシルバー過去5年の動き)
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(ドル建てシルバー過去5年の動き)

「需給のアンバランス」


まずこの供給不足の背景にあるのは需要の増加です。鉱山生産とリサイクルを合わせた供給は過去10年ほぼ3万トンから3.2万トンと一定しており大きな変化はありません。
しかし需要は年によってブレがあり、2022年は前年比18%と大きく伸びており、ほぼ全需要分野において増加しています。
特に伸びたのは現物投資で、ルピー安とゴールドへの関税上げの動きを受けたインドの買いが目立ち(188%の伸び)ました。
また、ここ数年確実に伸びている太陽光発電需要も堅調であり、それだけで28%の伸び。
この分野は2014年は1,507トンであったのが、2022年は4,365トン、2023年の予想は5,011トンと毎年12~14%の割合でその需要が伸びており、この分野は世界の温暖化防止への脱炭素化の動きとともに今後も大きく成長していくことが期待されます。
太陽光セル一枚あたりに使われるシルバーの量は「省シルバー」がすすんでいるのですが、(下のグラフでは10年前が100とすれば現在は40まで減っています。)それをはるかに上回る絶対量の増加ということになります。この太陽光発電需要はシルバーの需給をよりタイトなものにしていくでしょう。

 

「シルバーの太陽光需要と一枚当たりのシルバー使用量」
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「シルバーの太陽光需要と一枚当たりのシルバー使用量」

工業用需要全体では5.4%の増加となっています。
宝飾品の需要は29%の増加、銀食器は80%も大幅に増えており、コロナ禍で延期された需要が一度に出てきたという要因がありそうです。


これだけの力強い需要がありながら、なぜ昨年、価格は下がったのか。
それはシルバーの価格が必ずしも需給だけでは動いていないという現実があるからです。
シルバーの価格を動かしている最も大きな影響力を持っているのは機関投資家の動きです。
彼等は「投資対象」として、シルバーをゴールドと同じアングルから見ており、需給よりも金利の動き、FRBの金融政策そして株式市場の動きといったアセットとしての観点からシルバーの売り買いを判断しているのです。
2022年はFRBのインフレ対策としての急速な金利上げがあり、それは、投資対象としてのシルバーにとっては大きな向かい風でした。
機関投資家(個人投資家も含む)は、金利の上昇を背景にゴールドとシルバーを売るという動きに出てそれが価格を抑えこんでいました。
しかし今年に入りインフレ率が徐々に下落、マーケットが急激な金利上げによる不況の恐れに敏感になり、金利上げの終了を織り込み、そして米国での銀行危機が表面化し、ゴールドとシルバーには急激に買い戻しが入り、5月初旬にシルバーは一時26ドルまで上昇しました。
World Silver Survey 2023ではこの投資家の動きを一時的なものと考え、FRBの金利下げはまだしばらくないと予想し、上昇したシルバー価格も年後半に再び下落すると予想しています。
これに関しては見方が分かれるところでしょう。
ただ、ゴールドはこの金利の高止まりにも驚くほど堅調であり、ゴールドが大きく崩れない限りシルバーも堅調を維持すると思われます。
それに需給の供給不足が加わればシルバーは大きく上昇する可能性があるのではないでしょうか。

                                            以上