このコラムを読んでいる金投資をされている皆さん、おめでとうございます。
3月31日の期末に円建てゴールドは8,490円を付けて史上最高値を塗り替え、その後、4月4日には8,576円となりました。
現物、先物そしてもちろんETFでも、ゴールドを保有しているすべての投資家が利益を出しているということになります。
この機会に円建てのゴールドの価格の歴史的な流れを見ておきましょう。
現代のゴールド価格の始まりは今からほぼ52年前の1971年8月のニクソンショックまで遡ります。
当時のニクソン米大統領が8月15日日曜日夜8時にテレビに出演、それまで米国が保証していたゴールドと米ドルとの兌換を停止すると宣言したことから始まります。
第二次世界大戦後、この時にいたるまで、米国は1トロイオンス(31.1035グラム)のゴールドと35米ドルの交換を世界に保証し、この「ドル・ゴールド本位制」であるブレトンウッズ体制が世界経済の基礎でした。
ドルはゴールドに裏打ちされており、そのドルとその他の通貨はドルとの交換レートが固定されており、世界中の通貨はドルを通じてゴールドに裏打ちされていたと言えます。
この状況が、ニクソン大統領により破棄され、つまりドルはゴールドとの関係を断ち切り、世界の通貨はゴールドを離れて、「不換通貨(fiat currency)」となり、米国が保有するゴールドの量とは関係なく、各国政府が好きなときに好きなだけ通貨を発行することができるようになり、その通貨間の交換レートもその時々の経済情勢などにより常に動く「変動相場制」が始まったのです。
これが、現在も我々が見ているマーケットです。
1971年、変動相場は円建てゴールドでいうと1グラム200円から始まりました。
私が商社に入社し、貴金属の取引を始めた1980年代半ばの円建てゴールドは1グラム1,000円近辺でした。
その頃ゴールドは基本的には右肩下がりの相場が続き、とりあえずショートをしていれば儲かるという相場でした。
私が覚えている安値は700円台がありました。
ゴールドの価格が上がるなどとは考えられない時代だったのです。
当時、世のゴールドを大量に保有する中央銀行(主に西欧)は圧倒的なゴールドの売り手でした。
ただし世界最大のゴールド保有国である米国は例外で全くゴールドを触ることはありませんでしたが。
当時はドル金利が高く、東西の冷戦の緊張が緩んできた時代であり、このころになると中央銀行の資産運用を担当している人間はもはや第二次世界大戦後に生まれたものがほとんどであり、直接的な戦争の記憶は持っておらず、彼らにとっては、ドルを持つことによって得ることができる金利収益を考えると、ほとんど何も生まないゴールドを保有することは正当化できないと考えて当然でした。
私もゴールドを持っている投資家の気が知れないと当時は真剣に考えていました。
しかしその流れが変わったのは1999年でした。
それまで積極的にゴールドを売ってきた主に西欧の中央銀行とECBは、米国ワシントンDCに集い、CBGA(Central Bank Gold Agreement中央銀行ゴールド合意)という、ゴールドに関しての中央銀行の合意が形成されました。
当初はゴールドの売却は加盟国全体で年間400トンを上限にすることや、ゴールドを積極的にマーケットへ貸し出さないという内容の合意でしたが、これは大きなインパクトをマーケットに与えました。
ゴールドマーケットの流動性の源泉であった中央銀行がゴールドを貸さないことになったからです。
この発表によってゴールドは右肩下がりから右肩上がりへとトレンドが変わりました。
2004年のゴールドETFの誕生、2008年からのリーマンショック、2020年からのコロナショックという契機ごとにマーケットの上昇に弾みがつきました。
そして今、過去50年余の最高値となり、200円だったのものが8575円まで上昇、なんとその価値は42倍に膨らんだのです。
そしてそれは逆に言うと通貨の価値がゴールドの42分の1になったともいえます。
実はそれは当然の動きなのです。米国に流通するドルの量(M2)は1971年のニクソンショック時の$685billionから$21.17trillionへとけた違いに増えているからです。
この流れはまだまだ続くでしょう。
ロシアそして中国との米国の対立を背景としての「脱ドル」の動き、世界の多極化というこれまでの欧米中心の自由主義の価値感を真っ向から否定する国々の台頭。
今この時点でドルの代替資産として誰もが受け入れるのはゴールドしかありません。
中央銀行のドルからゴールドへの動きはこれからさらに加速していくと考えます。
円建てゴールドが1グラム1万円というのもあながちそんなに先の話ではないのではと考えます。
ゴールドは短期的取引よりも長期的に保有するのが最良な投資法であることはこの過去50年の動きではっきりと示されていることでしょう。
一般投資家にとってはゴールドETFをコツコツと積み立てるように買って資産の一部にしていくというのが最もただしいゴールドへの投資法ではないでしょうか。
以上