前回プラチナのリースレート高騰について書きましたが、今回はそのリースレートの背景にあるものに関する考えを書きたいと思います。
それがおそらくプラチナ取引の参考にもなると思います。


5月中旬、プラチナのリースレート(金利)が急騰しました。
1カ月物は一時10%を超えるまで急騰、ゴールド、シルバーそしてパラジウムの1カ月物のそれが0.5%、米ドル金利も0.85%程度だったことを考えるとこのレートは異常でした。
これは前回のレポートを読んでください。

 

PT1mos リースレート
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PT1mos リースレート

このリースレート高騰には、明確な理由が見当たりませんでした。
マーケットのプレイヤーたちもただただ頭をひねるばかりでした。
そこで、僕の見方を書いてみましょう。


まずプラチナのリースの対象はあくまで「Loco Zurich/London」のプラチナであること。
これはゴールドも同様ですが、我々が手元に持っているプラチナの現物は直接貸し出して運用することはできません。
ロンドン、もしくはチューリッヒのプラチナアカウントにある(少なくとも帳簿上、これは通貨と全く同じです。)プラチナだけが貸し借りの対象になります。
つまりあくまでプロの間での取引となり、個人投資家が参加できるものではありません。
これはゴールドをはじめとするほかの貴金属でも同じであり、それが「金は金利を生まない」といわれる原因の一つだと言えるでしょう。
今、このアカウントのプラチナの金利が急騰しているわけです。
たとえば日本の現物市場に物がなくなったというわけではないのです。
ここでそれではなぜLoco Zurich/Londonのアカウントのプラチナの金利が上がったのでしょうか。
このプラチナのリースレートの急騰は、マーケットでは当然こと大きな注目点となりました。
一か月の金利が10%を超えることはそうそうあることではありません。
一体何があったのか、何らかの大きな理由があるはずなのですが、これだと特定できるような明らかに目立つ理由は何も見当たらなかったのです。
もしこれがロシア要因であればパラジウムのリースレートの方が急騰しているはずです。
しかしパラジウムのリースレートはほとんど動いていません。

 

(リースレートチャート:プラチナとパラジウム)(WPIC プラチナ展望2022年5月より)
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(リースレートチャート:プラチナとパラジウム)(WPIC プラチナ展望2022年5月より)

ここで私が注目するのは中国の動向です。
中国のプラチナ輸入量は、実際の統計に出てくる需要量(宝飾品および工業用需要)をはるかに上回る量であり、統計からは抜け落ちている分があります。
Metals FocusのPGM Focus 2022によるとプラチナの世界の需給は2021年は30トン、2022年は16トンの供給過多になっていますが、ほぼそれを超える量が中国によって輸入されています。
これはプラチナ価格の動きをみた中国の「実需筋」の投機的なロングポジションなのでしょう。
彼等はLoco Zurich/Londonのアカウントから現物を紐付けして実際に輸入しているのです。
そのためLoco Zurich/Londonのアカウントの現物が逼迫しリースレートが上昇したということでしょう。
中国はおそらくはプラチナが900ドル近辺、もしくは割り込んだところを積極的に買っています。
ゴールドとパラジウムに対するプラチナの割安感は大きく、中国の実需家(宝飾・工業用需要を持つ企業)はその相場観に従って自分たちが必要以上のメタルを買うことがしばしばあります。
本来ならば材料として100kgのプラチナが必要だとすれば、彼等はマーケットが割安だと思えば平気で200kgや500kg買ったりするわけです。
おそらく現在のプラチナマーケットは彼らにとっては非常にわかりやすいものなのでしょう。
900ドルで買い、1,000ドルで利食い売りを出す。
そのためプラチナの相場もこのレンジを抜ける動きはここしばらく抑えられているということでしょう。
短期中期的にはこのレンジで中国の実需筋と同じ取引つまり900ドルを割ったら買い、1,000ドルを超えたら利食い売りという取引戦略はありでしょう。ポジションのスタートは1,000ドル以上でのショートではなく、900ドル近辺でのロングから。
PGMはときどき様々な理由からの供給不安で大きく上値が跳ねる可能性があるので、できればショートからは入りたくないところです。
長期的には900ドル近辺で買ってホールド。
水素社会でのプラチナ需要増、そして既存のガソリン自動車の触媒としてパラジウムの代替での需要増に期待したいところです。

 

(プラチナ過去1年)
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(プラチナ過去1年)
(円建てプラチナ過去1年の動き)
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(円建てプラチナ過去1年の動き)

以上