貴金属という括りは、ゴールド、シルバー、プラチナそしてパラジウム、ここまでが世界の先物市場で上場されており、スポットでもロンドンおよびチューリッヒ渡しの相対市場が存在する(ロコ・ロンドン、ロコ・チューリッヒ・マーケット)のもこの4メタルです。
しかし貴金属という括りにはプラチナやパラジウム以外の白金族(Platinum Group Metals :PGM)も含まれ、残りのPGMであるロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムの4メタルも広い意味での貴金属であり、貴金属はゴールドとシルバーに加えてPGM6メタルの8メタルということになります。


プラチナとパラジウム以外のPGMが上場されず、スポットマーケットもほぼ存在しないのは、その生産量が圧倒的に小さく市場取引のための十分な流動性がないからです。
そのため、基本的には投資の対象にもなりません。
というか、投資する方法がないのです。
これらのメタルは生産者である主に南アそしてロシアの鉱山会社と自動車会社や自動車触媒会社など需要家との直接取引もしくは商社が介在する相対取引が基本的な取引形態となっており、そこに投資家が入っていく「市場」はほぼ存在せず、ほぼ100%産業用のメタルであるということができます。


「ロジウム:Rh」はプラチナやパラジウムと同じように自動車の排ガス触媒に使われるのが主な用途であり、特に窒素酸化物の除去にはロジウムは欠かせない触媒となっています。
今年3月には南アの供給不安もあり、一時3万ドル直前というレベルまで急騰、歴史的にも地球上の金属でもっとも高い価値をつけました。現在はそこから14,000ドル前後まで下がっていますが、それでも1グラム当たりの価格(一時10万円、現在5万円)を考えると地球上でもっとも価値の高い物質でしょう。

 

(ドル建てロジウム価格の推移)
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(ドル建てロジウム価格の推移)

「イリジウム」はその硬度、耐摩耗性、そして融点の高さから従来点火プラグや万年筆のペン先に使われてきました。
しかし最近では水素社会での水素を水から取り出す「水電解」の電極として使われるということで注目を浴びています。
ルテニウムは接点やメッキ、オスミウムは合金としてこれまた万年筆や接点に使われます。

 

(イリジウム価格の推移)
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(イリジウム価格の推移)

ロジウムに限らずこれらのPGMが近年大きく上昇しました。
一年前と比べるとイリジウムは300%上昇、ルテニウムは200%も上昇したのです。
プラチナは20%の上昇、さすがに上がりすぎていたパラジウムは20%の下落となりました。

 

(ルテニウム価格の推移)
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(ルテニウム価格の推移))

もっとも上がっているイリジウムは2011年にLEDの生産増大のための「坩堝(るつぼ)」の需要が伸びそれまで400ドル近辺であったイリジウムは1,200ドルまで上昇、その後もじわじわと上昇、一年前は1,600ドルであったのが、昨年年末からの南アの精錬工場の事故により供給が滞ったことが大きく影響し、年間鉱山生産量がわずか7-8トンのマーケット規模も手伝って、価格は一時6,000ドルを超えるまで急騰しました。
ちなみにプラチナとパラジウムは200トン前後、ロジウムは20トン前後、ルテニウムは31トン前後というのがPGMのマーケット規模です。
ゴールドの年間生産量が3,600トン前後あることを考えると格段とその供給は少ないということがわかります。
そしてもう一つゴールドとの大きな違いは、ゴールドはほぼ世界中でまんべんなく生産されますが、PGMはそのすべてを南ア、ロシア、そして北米の決まった場所でしか生産されません。
パラジウムはロシアと南アがほぼ変わらないくらいの生産量がありますが、それ以外のプラチナよりマイナーなPGMに関しては、ほぼほぼ南アが大部分を生産するという極端に偏りのある供給構造になっているのです。


イリジウムは南アの生産問題が解決した今でも4,500ドルと相変わらず高いレベルで落ち着いています。
これは水素社会の進行とともに、水素をグリーンエネルギーで取り出すための水分解の電極(触媒)としての用途に注目が集まっているからです。
昨年のこの用途での需要はわずか31kgに過ぎませんでしたが、2025年までには620kgにまでこの需要が拡大すると見られています。
この価格の上昇によりこれまでは処理されなかった低品位の鉱石も処理できるようになり、特に有望視される水素関係のイリジウム需要に対する供給は少なくとも短期的には安定していると考えます。


マイナーPGMの生産は主に南アでプラチナと一緒に採掘されます。
そのため南アの生産者はPGMバスケットという形でその生産のコストを考えます。
マイナーメタルの価格が上がれば上がるほど、その生産は利益が上がるということになります。
実際、現在の南アのプラチナ生産者の収益はプラチナよりもロジウムからの方がはるかに大きくなっています。
触媒としての用途を考えるとPGMの価値はまだまだ上がる可能性が高いでしょう。
当然プラチナとパラジウムもその例外ではありません。

以上