トランプ大統領の民間企業介入は、ゴールドマン・サックスのエコノミストに及んだ。SNSへの投稿で、同社CEOをファースト・ネームで呼びかけ「ソロモンよ、さっさと新しいエコノミストを雇いなさい。」と呼び掛けたのだ。
その理由として「同社は、かなり前から、関税とマーケットに関して悪い予測を発表してきた。ソロモン氏が個人的にDJ(ディスク・ジョッキー)に肩入れしていることから、「ソロモン氏は、DJに専念すればよい」とも述べている。

この発言が、ウオール・ストリート・ジャーナルなど現地経済メディアにより報道されたことで、市場の関心度が高まっている。

やり玉に挙げられたのは、同社チーフ・エコノミストのヤン ハチウス と見られる。同氏は、同社経済調査チームとして、関税は労働市場を悪化させ、インフレ率を高め、米国経済減速を招くと予測してきたことが、トランプ氏は、お気に召さなかったようだ。他社のエコノミストたちの間でも、同様の見解が目立つので、ウオール街の最大の投資銀行のエコノミストということで、狙い撃ちされたとの見方が大勢だ。

ハチウス氏は、例えば、今話題の雇用統計など重要経済指標発表後には、経済テレビ局に呼ばれ、解説役として出演する常連である。ウオール街のムードを反映する、オーソドックスな見方に徹しているので、筆者も常日頃、同氏が画面に映れば、注目して意見を聞いてきた。

CPI発表を控えた今週初めに発表された同社のレポートでは、米国消費者が関税のコストの22%を吸収して、更に今後、新たな関税が発動されれば、その比率は67%になるとしている。

なお、トランプ氏は、ゴールドマンサックス社に、遺恨があるとも言われる。昨年9月に大統領選で民主党勝利を予想して、共和党勝利なら経済減速との見解を披歴したからだ。ハセット現国家経済会議委員長(次期FRB議長候補の一人)が、同社のエコノミスト人選に異論を唱えたことも記録に残っている。
ただでさえ、トランプ氏は、過去に銀行口座開設を拒否されたと主張して、銀行の政治的・宗教的な顧客差別の実態調査を命じ、銀行側は反論に動いている最中のことである。

筆者の存じよりのエコノミスト氏も、発言次第では、トランプ氏による批判を受けかねないと、危惧していると心情を吐露したうえで、言論統制に近い言動に憤慨を隠さなかった。
既に、雇用統計速報が廃止された場合に、他の労働市場関連指標の組み合わせで、労働経済を分析する方法論なども、エコノミストの間では議論になっている。
経済統計の集計法の見直し、関連官僚の解任、そしてFRB人事への露骨な政治的介入と続くと、ウオール街には、筆者もこれまで経験したことのない、淀んだムードが漂っている。

中国並みの言論統制。

トランプ独裁国家。