「シルバーの需要」
今回はシルバーの需要をみてみましょう。
資料はSilver InstituteとMetals FocusによるWorld Silver Survey 2021からです。
2020年のシルバーの需要はCovid19の影響を大きく受けました。
そのためほとんどの分野で前年比マイナスとなっており、需要全体でも10%のマイナスとなりました。
しかしMetals Focusの見通しでは、2021年は15%増と20年のマイナスを上回る伸びとなると見られています。
「産業(工業加工)用需要」
2020年のシルバーの総需要32,130トンのちょうど半分を占めるのが産業用需要(16,299トン)です。
ゴールドは産業用需要が10%しかなく、ゴールドとシルバーの需要構造の違いはそこが大きいと言えます。
シルバーはあくまで工業用のメタルなのです。
(その意味では、貴金属の中でゴールドだけはほぼ純粋に投資用のメタルであり、シルバー、そしてプラチナをはじめとするPGMはより工業資材のメタルと言えます。)
「電気・電子材需要」
この産業用需要のもっとも大きな部分が電気・電子材と呼ばれる分野で9,500トン前後あります。
シルバーは自動車部品、パソコンやエアコンなどの家電にも部品として多く使われており、特に今年は在宅勤務によりパソコンやエアコンなどの需要が大きく伸びており、逆に販売不振に陥った自動車での減少分をある程度補った形になっています。
ただしこの自動車用の需要は今後は伸びていくとみられています。
現在の内燃機関車、つまりガソリン車とディーゼル車では、一つ一つの部品で使われるシルバーの量はわずかでも、一台あたりの総使用量は15グラムから28グラムと言われています。
(ハイブリット及びEV車では、シルバーの使用量はより多くなります。)
2021年の乗用車販売は8,500万台との予想がされていますが、これをシルバー量に換算すれば1,900トンからの需要になります。
そしてMetals Focus社の予測によればこの需要は2025年には2,700トンまで増加するとみられています。
「太陽光発電需要」
シルバーの産業用需要の中で現在もっとも注目されているのが、「太陽光発電」によるシルバー需要です。
シルバーはその「感光性」を利用し、太陽光発電パネルにペーストとして塗られることで使用されています。
世界の脱炭素化の動きの中、再生可能エネルギーの代表としての太陽光はまさに「グリーンエネルギー」セクターの中心にあります。
昨年2020年はコロナ禍にありながら、新たなに設置された太陽光発電での発電量が史上初めて130GWを越えました。
地理的にも新たに18もの国々が1GW以上の太陽光発電に達し、2010年はわずか6ヵ国だけであったことを考えると飛躍的にこの分野が拡大しているのがわかります。
昨年、この分野のシルバー需要は3,142トン、今年2021年は3,267トンと見込まれており、産業用需要のほぼ2割を占めるまでに成長してきています。
そしてより注目すべき事実は、過去10年の間に太陽光パネルの1セル当たりのシルバーの使用量は80%も減少しているのです。
つまり、生産者の技術開発努力により、一枚当たりのシルバー使用量は大幅に減っているのにも関わらず、太陽光パネル全体のシルバーの需要量は増えているということです。
太陽光パネルのコストにおけるシルバーの割合は現在11%です。
業界ではもちろんこれを低減すべく、省シルバーを追求していますが、完全なるシルバーの代替材料はまだ開発されていません。
しかし、これまでの全体の努力で、太陽光発電自体のコストは開発当初と比べる90%もカットされ、今では再生可能エネルギーの中でももっとも競争力のあるものになっています。
また太陽光発電の最大の課題であった天候による不安定さも、太陽光発電で得た電力を水電解により水素へ変換し蓄えるという動きが、今後のクリーンエネルギーの進む方向として採用され、それがより太陽光発電を増やすという循環になっています。
省シルバー化を上回る「グリーンシルバー」の可能性は、シルバーの需要より増大させる可能制が大きいでしょう。
「写真需要」
写真需要もシルバーの感光性を生かしたフィルムに使われる需要です。
デジタルカメラが登場するまでは、この分野がシルバーの最大の需要分野でした。
昨年は前年から16%の減少で859トン。
もちろんパンデミックの影響が大きいのですが、近年はインスタントカメラのフィルム需要でわずかながらも伸びていたものが減少に転じました。
医療用のレントゲンフィルム需要も医療自体がパンデミック対応となったため減少しました。
レントゲン撮影のデジタル化も停滞しましたが、世界が正常に戻ればその動きはまた始まると思われ、写真需要の減少につながるでしょう。
映画用フィルムでのシルバー需要も同様にパンデミックの影響を大きく受けました。
「宝飾品と銀食器」
この分野でもパンデミックの影響は大きく、2020年の需要は4,622トンと前年から26%もの大きな減少となりました。
特にこの需要の半分以上を占めるインドでのルピー安からのルピー建てシルバーの高値が重なり大きく需要が減少したことが響いています。
しかし逆にそのために、2021年は大きく反発、24%の需要増加が見込まれています。それでも2019年のレベルからは8%の減少となりました。
銀食器はそもそも中世ヨーロッパで使われ始めました。
貴族が毒殺を防ぐために使ったと言われています。
当時のヒ素毒にシルバーが反応し、色が変わったからということです。今では銀器もインドが一番大きな市場です。
(シルバー宝飾と銀食器加工需要予想)
以上