ちょうど50年前1971年8月15日日曜日、当時の米ニクソン大統領はゴールドと米ドルの交換の停止を発表しました。
このニクソン大統領による夏休みの日曜日の唐突な発表は、1944年から続いた第二次世界大戦後の国際経済体制である「ブレトンウッズ体制」の終わり告げるものとなりました。
それまで1オンス35ドルという固定価格でドルとゴールドの交換を認めることによって維持されていた固定為替相場が終了、世界の通貨はゴールドに裏打ちされない「不換通貨」となり、同時に「変動相場制」が始まった日でした。
この日からゴールドは1オンス35ドルという固定価格から、マーケットの需給により価格が決まる変動相場制に移行したのです。


第二次大戦直後1944年7月1日から22日、米国ニューハンプシャー州のブレトンウッズで44ヵ国から集まった730人の代表が戦後の国際経済体制に関して討議しできた合意が、ブレトンウッズ体制です。そこで設立された国際通貨基金(IMF)の名前を使って「IMF体制」とも呼ばれます。
ブレトンウッズ体制の元では、米ドルが基軸通貨として認められ、1トロイオンス(31.1035グラム)のゴールドは35米ドルと決められました。
フランスフランや英国ポンド、スイスフランなどすべての通貨は米ドルとの間での交換レートが固定・保証され、実質的にゴールドとの交換が認められていたのです。
しかしブレトンウッズ体制は完全な意味での「金本位制」ではありませんでした。
それは「疑似金本位制」とでも呼ぶべきもので、肝心の米国でも1933年にルーズベルト大統領が、米国民のゴールド保有を法律で禁止し、銀行や個人はその保有ゴールドを米国に返還し、変わりに米ドルを受け取り、銀行はその残高をFRBに持つということになっており、ゴールドを決済として使えるのは国際的な中央銀行間の取引決済においてだけでした。
ゴールドと米ドルを結びつけることによってそこに信頼を生み出し、米ドルを基軸通貨とすることが、当時の世界状勢では唯一の各国が合意できる体制だったということだったのでしょう。
しかしこれは、あくまで米国が各国の要望に応じて、ドルとゴールドを交換するという約束を守るという前提においてのみ有効な体制であり、この約束に米国が耐えきれなくなったのがちょうど50年前でした。


ブレトンウッズ体制は少なくとも戦後しばらくの間はその役割を十分に果たしました。
しかし、世界経済が復興し、世界の貿易や資金の移動が拡大していくとその体制に軋みが出て来ました。
早くも1950年代には米国は朝鮮戦争そしてその後60年代にはベトナム戦争へと突入することになり、米国はドルを印刷することによってそれらの戦争をファイナンスします。
その結果物価は高騰し、米ドルの購買力は大きく低下、そして国際基軸通貨としての米ドルの信頼は大きく損なわれることになり、多くの国々がその保有している米ドルをゴールドに交換することを米国に求めるようになりました。
米国のゴールド準備は当時の世界の中央銀行の持っている「マネタリー・ゴールド」の三分の二を占めていましたが、世界各国、特に西欧の諸国からの当時は米国外にあった「ユーロ・ドル」をゴールドとの交換のため米国に持ち込み、ゴールドの「引き出し」を進めた結果、あっという間にその残高が減っていきました。
2万トンあった米国の保有ゴールドが、他の国々の引き出しにより8,000トンまで減少し、もはや米国のゴールド支払い能力は破綻寸前という段階でした。
その結果がこのニクソン大統領による突然のドルとゴールドの兌換停止宣言だったのです。
これはドルとゴールドの兌換にその基礎を置いていたブレトンウッズ体制の突然の停止を意味し、この宣言により1971年8月15日以降、世界経済はそれまでと全く違うものになってしまった瞬間でした。
すべての通貨は「不換通貨=fiat money」となり、もはや保有しているゴールドの量に縛られることがなく、「好きな時に好きなだけ」発行ができるものになったのです。
当然その結果、それ以降、物やサービスの価格が大きく上昇(通貨の価値が下落)するという「インフレーション」が進むという事が起きるようになります。
通貨発行権という宝刀を得た国家と中央銀行は、その強大な力によって経済をそして世界をコントロールしようとします。そのためにより多くの通貨を発行するという循環を世界は続けているのです。
この増大する通貨量の結果として、投機が生まれ、バブルが形成され、それがはじけて経済危機が起きるという景気不景気サイクルが繰り返されることになりました。
そしてこの景気不景気のサイクルにおいて、経済成長よりも遥かに速いスピードで世界の「負債」は膨らんでいき、その総額は加速度的に増加しているのです。


そして今、パンデミックによる経済のスローダウンに対して、世界の中央銀行は金融緩和と財政出動という名目で、歴史に例をみないほどの通貨を増刷し、世界の負債総量はもはやどう考えても支払うことができるレベルではないまで膨らんでいます。
国際金融協会(International Institution of Finance: IIF)の計算によると2021年第一四半期での世界負債の額は289兆ドルであり、世界の経済規模の360%に当たるとしています。
これはどう考えても返済不可能な額でしょう。
「不換通貨制度」はほぼ限界に来ていると思われます。
冷静に考えてこの状況が行き着くところはインフレという徳政令による負債の減額しかないでしょう。


1971年8月15日に始まったゴールドと通貨のデカップリングと国家による自由な通貨創造、50年を経てその限界が近づいてきていると言えるでしょう。
そしてそれが結果的に再びゴールドの役割にスポットライトを当てることになるのではないでしょうか。
もはや制御不能の規模になった国際経済では「金本位制」の復活は物理的に不可能ですが、ふくれあがった不換通貨に対して、おそらく唯一の内在価値をもつゴールドの役割は増大していくことと思われます。
当時35ドルだったゴールドは現在1,780ドル、50倍になっています。

(過去50年のゴールド価格の動き)
拡大
(過去50年のゴールド価格の動き)

 

新興国の中央銀行が積極的にゴールドを買っているのはそれを見通しているからかもしれません。
個人投資家としてもゴールドをポートフォリオに入れておく意味は今後より大きくなっていくでしょう。
価格の下落場面があればそれはまさにゴールドを手に入れるよい機会だと考えた方がいいでしょう。


以上