しかしそんなプラチナが今年に入ってから急速に上昇を始めました。その背景にあるのは以下の事柄だと考えます。
1. 「水素社会への世界の動き」
欧州、中国、日本そしてバイデン政権となった米国。すべての国々が脱炭素、水素社会へのロードマップを発表し、そこでのプラチナの役割に注目が集まってきていること。水を電解して水素を取り出す時に使われる触媒がプラチナとイリジウムです。この水電解における触媒としてのプラチナの役割が注目されて、イリジウムは昨年末の1700ドルから4400ドルまで2.5倍に上昇、プラチナは1070ドルから1330ドルまで上昇しました。それに加えて自動車触媒としても次世代自動車候補としての燃料電池車(FCV)ではプラチナの触媒が使われ、その使用量は一台あたり同じくプラチナ触媒が使われているディーゼル車の10倍近い量になります。年末からの急激な動きの最も大きな要因はおそらく漸く政権を担うことになったバイデン大統領の環境問題に対する積極的姿勢への期待が反映されているものと思われます。
2. 「南アでのコロナ変異株問題」
南ア政府が契約していたアストラゼネカのワクチンが南ア変異株に対しての効果が保証できないということになり、南アでのワクチン接種が停滞。南アは感染者148万人、死者47000人とアフリカでも最もひどいコロナ状況であり、ワクチン接種の遅れは今後のプラチナ鉱山生産に対する不安要素としてマーケットは受け取っています。
3. 南アの電力事情
2008年年初、プラチナは2300ドルという歴史的高値をつけ、それが未だにプラチナの歴史的高値です。その背景にあったのが電力不足でした。それ以降現在に至るまで南アの電力不足状況は変わっていません。計画停電は未だに行われており、この状況は簡単には改善できるとは思いません。もはや13年間も続いているのです。2015年竣工を予定されていた2つの火力発電所は未だに稼働しておらず、電力不足状況にもちろん鉱山会社はそれなりに対応の術を考えていますが、やはりこれは供給不足に直結する問題として大きな不安材料です。
4. ゴールドとパラジウムに対する割安度
冒頭に書いたように過去5年間、他の貴金属が大きく上がる中、プラチナだけが放置されていました。そのため、ゴールドに対しては一時1000ドル以上安く、パラジウムに対しては2000ドルのディスカウントとなりました。ゴールド、パラジウムとももはや大きく上がってしまっただけに、プラチナの割安さがそれだけ大きく目立つこととなり、水素社会での需要増加の可能性、南アでの供給不安の可能性も投資家の注目に輪をかけたようです。
今年プラチナが上昇する理由は以上のごとくたっぷりあります。年初の予想通り、もはや大きく上げていますが、そもそもプラチナはゴールドよりも高い時期が長かったことを考えると、プラチナの見直しはまだまだ始まったばかりだろうと思います。
以上