WPIC(World Platinum Investment Council)から新しい四半期レポート「WPIC Platinum Quarterly Q3 2020」が発表されました。そしてその内容にマーケットが反応、プラチナが上昇しています。
 

(プラチナの動き)
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(プラチナの動き)

「プラチナ上昇の直接的背景:2020年の需要と供給そして2021年の需給見通し」

今年2020年のプラチナマーケットの需給は史上最大の供給不足となる見込み。2ヶ月前の前回の四半期レポートでの予想である10トンの不足から、37トンの不足へ大きく下方修正。コロナウイルスによる鉱山の生産停止と南アの製造工程での問題での供給が大きく失われた一方、コロナによる影響で需要が減った自動車触媒、宝飾、そして工業需要を、大きくのびた投資需要がカバーした状況。
2021年の予想は、3年連続での供給不足見込み。7トンの供給不足は、17%の供給増加と2%の需要増加の結果。需要が2%しか伸びないのは歴史的には平均以上の投資需要であるが、今年に比べると減少するため。この3年連続の供給不足の結果、地上在庫も大きく減少し、プラチナの需給は今後より引き締まってくることが明らか。この需給の引き締まりが、プラチナ価格の1月以来の1000ドル超えの動きの原動力となっています。
 

(プラチナ需給バランスと年末の地上在庫)
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(プラチナ需給バランスと年末の地上在庫)

「1000ドル超えの動きは続くか?」

過去5年間のプラチナ相場では、1000ドルはほぼ天井となっています。1000ドル以上のレベルをどうしても維持できませんでした。今回は始めて1000ドル以上でまだ上昇しそうな勢いです。
 

(プラチナ20年の動き)
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(プラチナ20年の動き)

上記のWPICのレポートが発表されてから1000ドル以上あったゴールドとプラチナの値差が800ドルとほぼ200ドル以上縮小しています。ファイザーによるワクチンショックでゴールドが大きく下げたのにも関わらず、プラチナはほぼ下がらず、逆にじわじわと値を上げているのがその原因ですが、今回のプラチナ上昇の背景にあるのは、上記の引き締まった需給に加えて、現在の世界が直面している環境問題におけるプラチナの可能性に投資家が注目してきたということがあります。
 

(ゴールド・プラチナ・スプレッド)
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(ゴールド・プラチナ・スプレッド)

「炭素社会から水素社会への変化におけるプラチナの役割」

炭素社会から水素社会への地球的規模での動きが、プラチナにとっては強気要因になっています。まずは自動車触媒。先日経産省が、脱ガソリン(これはおそらくディーゼルも含む内燃機関エンジンという意味でしょう。)で2030年半ばに新車販売はすべて「電動車」にするという目標を掲げました。「電動車」とは、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車を差し、要はガソリンだけ、ディーゼルだけという内燃機関エンジンの自動車は販売しないということです。英国も先日ジョンソン首相が、2035年としていた目標を前倒し、2030年以降は内燃機関の車の新車販売を禁止すると発表しました。世界は急速に内燃機関自動車からの離脱の方向に向かっています。電気自動車は、電池でモーターをまわすだけなので、触媒は必要せず当然何も排出しません。しかし、車自体は何も排出しなくても、その電気をどうやって生産するかが問題になります。石油、石炭のような化石燃料を燃やしてCO2を排出していれば全く意味がありません。燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle) は水素を燃料とする自動車で、排出するのは酸素と水だけであり、環境的には地球に優しい車です。この燃料電池車の触媒として、プラチナが使われます。その量は現状では同じ触媒として使われるディーゼル車の10倍近い30グラムと言われています。しかし水素をどうやって作るのかが大きな課題になります。今ドイツを中心とした欧州では、風力や太陽光などの再生可能エネルギーにより発電した電気で水電解をすることで水素を取り出すという試みがなされています。水素社会の根源となるこの、水電解による水素生産に使われる触媒がプラチナとイリジウムです。燃料電池車の触媒と水電解の触媒としてのプラチナの需要は今度大きく伸びていく分野だと言えるでしょう。欧州の再生可能エネルギーによる水電解能力は今後の10年でなんと1000倍以上の成長が見込まれています。現在35メガワット(MW)のものが10年後2030年には40,000メガワット(=40ギガワット)と予想されています。これにより2030年の欧州のクリーンエネルギーの割合は全電力の40%近くになるとみられています。

 

(EU再生可能エネルギーによる水電解能力の成長予想)
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(EU再生可能エネルギーによる水電解能力の成長予想)

炭素社会から水素社会への社会の変貌は、太陽光発電のパネルに使われるシルバーと水素社会において触媒として利用されるプラチナにとっては強気材料となるでしょう。逆にガソリン車の触媒が、全需要の80%以上を占めるパラジウムにとっては、今後厳しい状況になっていくと思われます。ここ数年のパラジウムの高騰も、水素社会が急速に押し進められるとすれば、それをすべてなくしてしまうほどの下げになってもおかしくありません。まだ数年はガソリン車がなくなることはありませんが、この自動車の「電動化」が進んでいくとすればおそらくもっとも大きな影響を受けるのがパラジウムでしょう。これから数年は自動車業界の動きを注視する必要がありそうです。

 

(円建てプラチナ20年)
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(円建てプラチナ20年)

以上