(ゴールド・プラチナ・スプレッド)
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(ゴールド・プラチナ・スプレッド)

 

 

プラチナはゴールドとの値差が1000ドル近くまで拡がり、これまで歴史上みたことも無いような値差となっています。コロナウイルスのもたらす将来の不安のために上値を追うゴールドと、全くもって対照的なのがプラチナです。もはや出遅れという言葉では適切ではないほどその差は大きい。最大の理由は投資家の動き。コロナウイルスによる経済の先行き不安は、投資家をゴールドに、これまでなかったような勢いで向かわせています。一方プラチナには投資家の存在がほぼなく、その需要の大部分を占める工業用需要のコロナシャットダウンにより大きく減退、宝飾需要も都市封鎖とともにほぼ消えた状態であり、その結果価格は800ドル近辺で低迷、大きく上昇できない状況と言ってよいでしょう。そのためゴールドは年初来19%以上の上昇となっているのに対して、プラチナは逆に10%の下落で、その値差、スプレッドは開く一方になっています。
しかし、プラチナのこの極端な状況に一縷の光が差してきつつあります。世界的な前例のないほどの金融緩和の行き着く先は、貨幣価値の毀損、その反面としての物の価値の上昇。当然これはゴールドだけに限った話ではありません。そしてそれよりもよりプラチナにとって重要なのは、昨今じわじわとその方向が注目されつつある「水素社会」への流れです。コロナウイルスによる工場のシャットダウン、都市封鎖による自動車の減少により世界各国の大都市、特に顕著なのは中国で、もう何年も見ることのできなかった青空が話題になりました。環境汚染は、まさに人間の活動がその根源にあるいうことが、皮肉なことにコロナウイルスがはっきりと証明したのです。そしてそれはきっと今後、環境汚染問題に対する世界の行動を加速することになるであろうと思います。水素エネルギーはまさに次世代のクリーンエネルギーとして今もっとも注目されている分野なのです。
水素を動力源とする「燃料電池」はプラチナをその重要な「プロトン交換膜燃料電池技術」の中核とします。この燃料電池は水素をその燃料とし、乗用車からトラック、バス、列車、船舶そして飛行機まであらゆる乗り物から化石燃料を駆逐する可能性があります。ドイツはつい先日、今世紀半ばまでに、環境に対して一切悪影響を与えない国になるべく「国家水素戦略」を発表しました。コロナ後の経済刺激政策の一環として、784億ドルを再生可能エネルギーから水素を生産するプロジェクトに投入する予定です。彼らは水素エネルギー技術において、世界での最先端をいくことを目標にしており、水素生産と供給ネットワークを整備することにより、ドイツはグリーン(環境負荷のない)な水素を活用し、二酸化炭素削減と経済的なゴールを達成することを目標としています。
再生可能エネルギーから取り出された水素を燃料としたFCV(燃料電池車)を使うことは、その触媒として使われるプラチナの需要に爆発的な効果をもたらします。燃料電池は水素と酸素にプラチナを触媒として混合し、その結果出てくる副産物は熱と水だけであり、まさに究極のクリーンエネルギーと言えます。そしてその触媒としてのプラチナの使用量は、同じくプラチナを触媒とするディーゼルエンジンの10倍もあるのです。今後、この水素社会への動きが加速されれば、プラチナの需要が飛躍的に伸びる可能性が大いにあります。ドイツはその最先端を行っていますが、中国など他の国々もその可能性に注目し、それぞれに水素社会としてクリーンエネルギーを開発していこうという立場にあります。日本でも2000年前期から出始めた水素社会への動きを2014年には資源エネルギー庁の主導で水素社会実現に向けた取り組みとして発表されています。
筆者は水素社会への動きはコロナウイルスによって加速されていると感じています。800ドル近辺で低迷しているプラチナ、ゴールドよりも1000ドル近く安値に放置されているプラチナが水素社会の進展という将来での需要の爆発の可能性は決して小さなものではないと思います。だとすれば、長期的な地球の環境問題を考えてもおそらくプラチナの必要性はこれからどんどん高まってくるのではないでしょうか。長期的にはその価格も大きく修正されていくと考えます。

 

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