パラジウムは昨年、コモディティがすべて売られるselling climaxとなった8月16日の安値836ドルから3月21日の1615ドルまで約7ヶ月で780ドル、ほとんど下げの場面のないまま、一本調子にほぼ9割上昇しました。その背景にあるのが絶対的な需給、つまり何年も続く供給不足、というものだけに、どこまで上がるのかはまるで見当がつかない状態でした。これまでのレポートでも繰り返し書いてきたのが大体以下のようなところです。「基本的にパラジウムは上昇するしかない、そしてもし下げることがあるとするならば、このファンダメンタルズに乗って買った投資家が売るときである。これだけ急速に上昇したきた分、山高ければ谷深し、大きな下げになる可能性がある。しかしそのロングポジションが整理されるとそこで下げは終わり再び需給で上昇するであろう。」この投資家のロングの売り戻しで50ドル100ドルの下げは十分ありえると思っていましたが、まさか2日で300ドル近くになるような下げは想像を超えるものでした。
1600ドルを超えたところで、一部の大手投資家が利食いに動き、その売りによって下がったことにより、より多くの投資家が売りが連鎖的に膨らみ、まさに売りが売りを呼ぶ展開となり今回の下落となったのでした。高値の3月21日の1615ドルから今回の下げの4月5日の安値の1323ドルまで292ドルも下がったことになります。円建てでは最高値は5697円、今回の下げでつけた安値は4790円で約900円の下げ。8月半ばにつけた最安値が3006円だったので、そこから約2700円上げて、900円下がったことになります。非常に大きな上昇にようやくきた調整場面、現在はドル建て1390ドル、円建ては4960円前後でともに今回の底値からは戻しています。
ドル建てパラジウム価格の推移
円建てパラジウム価格の推移
「今後の見通し」
需給という最もファンダメンタルな側面からは、まだまだパラジウムの供給不足という状況は変わりません。今回の下げはやはり市場に参入していた投資家のポジション調整(というには大きな下げですが、それまでの上昇度合いから考えると妥当なところか?)からの売りによる下げであり、とりあえず下げ止まった今、売りたい向きのポジション調整はひとまず終わったと考えてよいと思います。以下投資家の参入による価格の動きとその背景を分析します。
Nymexの投資家ポジションとパラジウムETF残高とパラジウム価格
黄色線:Nymex投資家ポジション(1 contract = 50 toz = 約1.55kg)、
白色線:Pd ETF残高(onz = 31.1035grm)
緑色線:Pd ドル建て価格
過去五年のパラジウムのマーケットにおける投資家のポジションと価格の関係を振り返ってみると、ETFそして先物市場であるNymexの両方の投資家のロングポジションが一番大きかったのは2014年の9月。ETFが約96トン、Nymexが43トンで合計ちょうど100トン。そのときのパラジウムの価格は900ドル。今回の史上最高価格である1615ドルをつけた2019年3月はNymexのロングは23トン、ETFに至ってはわずか21トンで合計44トンと、価格は1.8倍にもかかわらず投資家のポジションは、半分以下でした。ETFのポジションが2016年から価格の上昇にもかかわらず、価格の動きと反比例するように96トンを最大にして、21トンまで減少しています。これは、実際のパラジウム現物の不足により、ETFから現物の引き出しがすすんだためと思われます。ETF、Nymexの投資家ロング残高が両方とも大きく増えていた前回の状況と、今回のこの状況から考えても、この価格の急騰は、投資家の思惑買いよりも、やはり純粋に需給要因による部分が相当大きいということが推測されます。だとすれば、投資家のポジションがある程度整理されると再びじわじわとパラジウムは上昇ということになるのではないでしょうか。もちろん、まだそれが完全に終わったとは言い切れません。ただいずれ落ち着きどころを見つければ、今回の投資家ポジション整理による大きな下げは、後から考えると絶好の買い場であったということになりそうな気がします。
以上