「南ア政局とPGM」
今回は需給や直近の相場動向からは少し離れてPGM(白金属元素)の最大の生産国である南アフリカの最新の状況を見てみましょう。
南アはその周辺地域(ジンバブエ)をあわせると世界のプラチナのほぼ80%、パラジウム30%(ロシアについで2位)を産出し、現在世界でわかっているPGMの埋蔵量の80%がその地中にあります。
昨年ANC (African National Congress)副議長であったラマポーザ氏がズマ大統領の推薦候補に勝利してANC議長となり、今年2月にズマ大統領が辞任、あらたにラマポーザ大統領が誕生しました。
そもそも腐敗しきったズマ大統領からようやく解放されるとあって、南アランドは14ランドから11ランドへ急騰、それに応じてプラチナも870ドルから一時1,000ドル越えるまで上昇しました。
ラマポーザ大統領がそもそも「ビジネスマン」であることからの経済運営での高い手腕を期待され、市場は素直に反応したのです。
まさにユーフォリア状態であったと言っていいでしょう。
(南アランドとプラチナの動き)
ところが実際ふたを開けてみると、彼がまず着手したのは2017年に決められたもっとも新しい鉱山憲章(南アでの鉱業の運営ルールのようなもの)を破棄し、今年の5月に新たなものを出すとしました。その新しい憲章は、鉱山の30%の黒人の所有、最低80%の資金を地元企業で使うこと、そのうち65%は黒人所有のサプライヤーであることという全くビジネス界の期待から逆行するものでした。
その上さらに悪いことに先月、南アフリカは土地の国有化に向かって大きく舵を切りました。
与党であるANC (African National Congress)そして野党であるEconomic Freedom Fighters (EFF) がともに、個人の所有権を制限する憲法改正に投票しました。
この投票の後EFFの党首は、農地や都市を含むすべての土地を「補償なしで南アフリカのものとし、所有者は国家とすべきだ。」とまで発言しました。
これは南アフリカにとっては非常によくない事態だと思います。
しかし逆の見方をすれば、減少している生産量、厳しい所有者比率そして土地の国有化の恐れが、世界のPGM供給の9割を占めていると言って過言ではない南アフリカを襲っている状況は、まさにPGMが大きく上昇する状況を引き起こす可能性があると言えるでしょう。
南アをショートしたければ、プラチナをロングすればいいとも言えるのではないでしょうか。
日々の値動きから少し距離を置いて、PGMの場合は特に、南アフリカの今後の内政がどのようになっていくのかを考えることは、多いに意味があることであると思います。
長期的なPGMの動きに間違いなくもっとも大きな影響を与えるのは、その大部分を産出するこの国の状況であることは明らかです。
以上