「当然ながら出口をそのころ(2019年度ごろ)検討し議論していることは間違いない」

2日午後、国会所信聴取での黒田総裁発言は、その前後の質疑応答が取捨され、切り取られて世界のメディアを独り歩きした。しかも、欧州時間、米国時間と徐々に「尾ひれ」がつき、NY市場では「ホークス・クロダ「(黒田総裁タカ派に)と仕立て上げられてしまった。その結果、円高が106円台から105円台にまで約1円進行。昨晩は、再び106円台に戻す展開になっている。

いっぽう、NY市場では、円高が外為市場でのVIX(恐怖指数)と化している。NYでも「円高」は不吉な前兆として不安視されるのだ。「VIXは上昇。円高も進行して」というような市況コメントが珍しくない。

更に、金曜NY市場寄り付き時点では、「日経大幅安」が悪材料視された。日米株価は共振する。昨日のNY市場では株価が大幅高となり、今日の東京市場でも株が急騰した。全てNY次第。東京市場に市場主導性はない。

いっぽう、マーケットの最大テーマである「保護主義」に対する過度な反応は和らぎ、NY株式市場も一定の安堵感を取り戻した。

しかし、その実態は「保護主義」という材料が大きすぎて、短期的に消化できない、ということだ。

鉄・アルミへの大幅課税がキッカケで、トランプ大統領は保護主義のパンドラの箱を開けてしまった。市場内では、品目・相手国・報復的措置、特に中国の反応などについて侃侃諤諤の議論が渦巻く。しかし、アミダくじのようなもので、紆余曲折は読み切れず、決定的シナリオは出ない。

トランプ大統領誕生時から危惧されていたことではあるが、今回のように具体化すると、市場の重荷となり、ドル安トレンドの連想を招く。(金価格は方向性定まらず)。

そもそも、自由貿易は各国が比較優位をもつ産業に特化して、比較劣位の産業は他国に譲るという精神で成り立つ。しかし、自国産業育成などのためには一定の保護的措置として関税も正当化とされる。そこで「最適関税」が国際経済学では議論される。

しかし、トランプ大統領が標榜するアメリカ・ファーストは、明らかに比較劣位のラストベルトでの雇用を保護する。「貿易戦争は良いことで、勝つのは容易だ」とのツイートは、市場に関税報復合戦を想起させる。しかし、貿易戦争に勝者はない。保護貿易思想が世界的に拡散すれば、世界経済成長は鈍化する。せっかくの「大型減税効果」も減じてしまう。

貿易戦争という時限爆弾を抱えつつ、当面の市場はパウエル新FRB議長がタカ派か否かに注目する。そして、黒田総裁もタカ派か、との「流言飛語」に近い表現にAIが反応して、市場の乱高下を誘発する。今週はECB理事会も控えるが、ドラギ総裁の欧州経済強気論に基づくタカ派的発言も、イタリア総選挙(ポピュリズム政党躍進)、ドイツ・メルケル政権難産の誕生に揺れるかもしれない。

総じて、マーケットは日々、主要国金融政策の結果としての金利動向で動きつつ、保護主義という大きなテーマを徐々に消化してゆくことになろう。

金については、トランプ不安が、下値を支える構図となっている。