人民元が続落。対ドルで6か月ぶりの安値をつけた。
NY株式市場でも、潜在的波乱要因として意識されている。
上海の銀行筋からは、米中貿易摩擦懸念と中国経済減速により、党の人民元管理体制は強化の見方が伝わってくる。
IMFのSDR構成通貨としてドル・ユーロ・円・ポンドに次ぐ「国際通貨」として人民元が認定されたときの「人民元自由化の方針」に逆行する動きだ。
人民元基準値決定のプロセスを複雑にして、他通貨バスケットに対する人民元レートも基準値算定で考慮されることになった。
その算定方法の詳細は明らかにされず、不透明性も当局の恣意性も強まる。
マクロ経済環境が悪化すれば、党の中国人民銀行への露骨な介入も強まることは、筆者も大手銀行内の現場で目撃してきた。
上海の外為トレーダーは人民銀行を隠語で「舅」と読んだりする。
「舅が動いた」との情報が走るとトレーディングルームには緊張感が走る。
その「舅」も、人民元が高過ぎれば輸出減少、安すぎればマネー流出のジレンマに縛られ、人民銀行への指示がぶれる。
党の人民銀行への圧力は強まるが、中国人個人投資家は、人民元よりドルを選好する傾向が強まっている。
一人当たり年間合計5万米ドル相当額に制限されている個人外貨購入枠も直ぐに使い切る事例が極めて多い。
その背景には歴史的に根強い人民元不信が指摘される。
写真は上海大手銀行内の銀行博物館の展示物だ。1949年発行の額面60億元紙幣。
下に丸窓があり、米が一握り置かれている。60億元の購買力を示す。
このようなハイパーインフレの体験が個人の自国通貨への信認を弱めている。
この60億元紙幣の裏に、紀元前に使われていた金貨が展示されているのが印象的であった。
銀行支店のなかに、「中国黄金文化」コーナーが設けられている例もあった。
更に、銀行博物館には、17世紀時代の上海の銀行風景が蝋人形を使い再生されていた。
特に筆者の目を引いたのは、その当時の銀行看板。「兌換各国金銀貨幣」とある。
そもそも国際都市上海で外国為替専門銀行から始まったことが説明書きに記されていた。
英語でgold and silver money exchangeとも書かれていた。
中国個人の外貨選好、それを人為的に制限する金融当局。
その結果、規制の抜け穴を探し続ける個人。
習近平氏は徹底した力による一極支配を目指すが、人民元を保有する中国個人の気持ちまでは支配できない。
市場では、米中貿易戦争が、通貨戦争にエスカレートするシナリオを警戒している。
写真 60億元紙幣と丸窓内の一握りの米
17世紀、上海の銀行の看板
銀行支店店頭の復元 gold exchange
支店内の中国黄金文化コーナー