今回の雇用統計ショックに、二人のFRB高官が、「過剰反応」と異を唱えている。
まず、パウエルFRB議長の右腕と見られているウイリアムズNY連銀総裁が、米労働市場は、過熱状態が徐々に冷却化されている過程であり、悪化とは言えないと見ている。9月FOMCでの政策金利決定に関しては「オープンである」と断言を避けた。
更に、ハマック・クリーブランド地区連銀総裁も「今回の雇用統計には失望したが、インフレは未だ収束とは言い難く、市場もひとつのデータに過剰に反応すべきではない」と論じた。
対して、これまで、労働市場懸念を理由に、FOMCでも公然と7月利下げ見送りに反対した、ウオラー理事とボウマン副議長にしてみれば、「我が意を得たり」の成り行きであろう。
それにしても、9月利下げ確率が、雇用統計発表前後に、30%台から90%近くまで急上昇していることは、過去の例を見ない稀有な現象だ。市場の不安心理を映すともいえる。NYマーケットの合言葉も「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」に変わりつつある。
トランプ大統領が、雇用統計が「仕組まれたこと」と批判して、担当官僚を解任するに至っては、常軌を逸した行動と言わねばなるまい。エプスタイン疑惑でコアの支持派が揺れていることに対する焦りが、経済政策にまで及んだとも見える。


9月利下げの可能性に関しては、8月22日に開催される恒例のジャクソンホール中央銀行フォーラムでのパウエル講演に市場は注目している。本来、アカデミックな議論を戦わせる場であり、一国の政策金利について具体的に論じる機会ではない。しかし、過去に、パウエル議長は強い表現で「利上げ」を示唆して、市場を混乱させた前例がある。今回の雇用統計後もパウエル議長の利下げに慎重な姿勢は変わらないのか。データ次第で、各会合ごとに決めて行くとの方針を常に唱えてきたが、今回はハードなデータが出たので、ややハト派気味の言い回しが使われれば、市場への影響は強くなろう。
「せっかくの長期夏季休暇も、今年は、家族を置いて、私ひとり職場に戻ることになりそうだ」とのトレーダーのぼやきが印象に残った。
国際金価格も、9月利下げを織り込み、急騰したものの、上記の状況では確信もてず、いまいち上がりきれない。


なお、ドル円については、下記のヤフーニュースの筆者コメント参照。

「米雇用統計ショック」もさらなる円高は見込めず 背景に政権弱体化による「日本売り」(産経新聞) - Yahoo!ニュース