今回のロシアへの経済制裁の一環で、ロシア中央銀行が保有する金の海外市場での売却まで禁じられたことは、ロシアにとって大きな誤算であった。同国は、経済危機のたびに、公的保有金をロンドン市場などで大量に売却して、有事を凌いできた。金市場内では「トイレットペーパーを輸入するための金売却」などと揶揄されたものだ。
いっぽう、原油価格が上昇して国庫が潤沢になると、次の危機に備え、公的保有金を増やしてきた。
それが、今や金最高値という状況にもかかわらず、「宝の持ち腐れ」になってしまった。
そのような状況下で、トランプ大統領が、ロシア側の要求に譲歩する姿勢を見せ始めたことで、ロシア銀による国際的なドル決済ネットワーク(Swift)への再接続の可能性が出ている。金の国際市場での売却による外貨調達の道も開けるかもしれない、との憶測が国際金市場内で流れ始めた。
25年3月時点で、ロシアの公的金保有量は、2,329トン。米国、ドイツ、IMF,イタリア、フランスに次ぎ、第6位だ。ちなみに第7位が中国で2,284トン。ロシアと中国の嫌米二か国が近年、公的金保有量を特に急増させており、金急騰の主因の一つとされる「中央銀行の金購入」の主役を演じてきた。それだけに、ロシアの国際金市場(具体的にはロンドン現物市場)へのアクセスが再開されると、歴史的金高値圏での大量売却が金価格の潜在的売り材料として意識されることになろう。
なお、場外取引で、中国人民銀行が、人民元建てを条件に、ロシアの公的保有金を買い受ける、というシナリオも考えられる。このケースならば、民間市場への金現物供給には影響が及ばない。
ロシアの案件をきっかけに、経済的に窮地に陥った中央銀行が金を売るケースも、想定しておくべき、との考えが改めて市場内でも芽生えている。
金の歴史を辿れば、1999年から2007年の期間には、年間400-600トンもの公的保有金が、主として欧州の主要中央銀行により売却された。背景では「これからは有事の金から有事のドルの時代だ」「金には金利がつかない」などの議論が飛び交った。その過程で、国際金価格は250ドル!という安値をつけた。メディアには「金200ドル時代」などの見出しが躍った。国内の金価格も1グラム1,000円割れ。今となっては、夢のような数字だが、それほどに、公的金売買が国際金価格に与える影響は強いのだ。
以下に、公的金保有ランキングの表を参考までに添付しておく。なお、3月28日朝7時5分からのBSテレ東「FTモーニング・プラス」にスタジオ生出演で金について解説する。