9月FOMC後の記者会見で、パウエル議長が9回も使った単語が、今や、ウォール街で、流行り言葉になっている。
その言葉とは、「recalibrate」。
再調整する、或いは、修正する、という意味で使われる。
例えば、パウエル議長は、「インフレ率が高く失業率が低かった1年前の政策スタンスから、現在の状況や今後の見通しを考慮した政策スタンスに再調整するプロセスで、時間をかけて進行する」と語っている。
「再調整」期間中は、インフレ率や失業率の出方次第で、利下げの幅と回数も変わる、と市場では解釈されている。
そこで気になるのが、11月FOMCでの利下げ幅だ。
0.25%か0.5%か、或いは、利下げ見送りか。
0.5%に達せねば、金高騰の宴も中締めのリスクがある。
この重要な金融政策再調整に最も強い影響を与える経済統計が、9月、10月の雇用統計だ。
既に、今年、市場は、上下に振れる雇用統計に振り回されてきた。
まず2月に発表された1月雇用統計の非農業部門雇用者数が35.3万人と大幅に上振れた。
市場では、早ければ3月にも利下げが開始され、年7回利下げ予測まで出回っていたが、このサプライズで、一気に見通し修正を迫られた。


そして、記憶に新しいのが、8月2日に発表された7月雇用統計。
雇用者数が11.4万人の増加に留まり、市場予想を大幅に下回った。
失業率も4.3%と、前月比で0.2%上昇した。
この結果を受け、8月5日の東京株式市場では「令和のブラックマンデー」が勃発。
時系列としては、7月雇用統計発表直前の7月30、31日に7月FOMCが開催されていた。
もし、事前に雇用統計の下振れが分かっていれば、FRBも7月の時点で救済的利下げ開始を決定したであろう、と市場では語られたものだ。
パウエル議長が、またもや、後手に廻ったとの厳しい声も聞かれた。


今回の記者会見でも、この点をずばり聞かれたパウエル氏は、NOと平然と受け流してみせた。
しかし、この一件がトラウマとなり、7月分と9月分を合わせて、0.5%の大幅利下げに踏み切ったとの見解は、未だに市場内に残る。
更に、その延長線上に、11月FOMCでも、0.5%大幅利下げ有力との説が流れる。
とはいえ、ここでは、9月、10月雇用統計の結果が極めて重要になる。
仮に、雇用者数が大幅に下振れ、或いは、失業率が悪化(上昇)すれば、救済的な0.5%大幅利下げが再度、決定されよう。
いっぽう、雇用統計が、かなり良い結果を示すと、堅調な米国経済(特に労働市場)が過熱化してインフレ再燃のリスクがあるので、利下げするにしても、0.25%に留める、或いは、利下げ見送りもあり得る。
そうなると、大幅利下げの宴で金を買い上げてきた人たちのなかで、特に短期投機筋が一斉に金の見切り売りに走る可能性がある。
ドカ雪の表層雪崩の如き現象となろう。


総じて、2,600ドルといえば、歴史的に超高値圏だ。
冷静に見て、筆者は、「コモディティ」としての金のファンダメンタルズである需給の均衡点を上回る価格水準だと思う。
投機筋の荒い売買にはバブルっぽい匂いもする。
それでも、「金融商品」としての金には、強い買い材料がある。
利下げ、米財政赤字問題、そして、外貨準備としての金購入、地政学的リスク、文化的に金選好度が高い中国・インドの民間金現物需要。
これだけファンダメンタルズが良い投資商品は、いまどきレア物だ。
だからこそ、旬の金融商品として扱われるのだ。
買い手も中長期運用のヘッジファンドや超富裕層のまとめ買いなど、長期保有組が目立つ。
但し、人気商品には、投機マネーも集まり、短期的価格変動は激しくなるものだ。
目先の派手な値動きに惑わされず、しっかりとマーケットの潮流を見極めることが肝要である。
短期的価格乱高下を繰り返しつつ、レンジの下値を切り上げ、2,700ドルを目指す展開と見る。