31日のFOMC記者会見では、米経済不況入りリスクを前提とする質問が目立った。
例えば「もし労働市場が冷え込み過ぎるリスクがあると判断した場合、前もって利下げを行う計画はあるか」
パウエル議長の答えは「より大きな景気後退のようなものがあれば、それに対応するつもりだが、私たちは今、いいところにいる。
失業率は4.1%と依然として歴史的低さをたもっている。データが何を示すか見守る必要がある」
さらにたたみかけるように、不況を危惧する質問は続いた。
「経済と労働市場は、データに示されているよりもはるかに急速に冷え込んでいるという考え方をどう捉えているのか」との質問には「細かいデータでも好調・不調の波長が混在していると捉えている」と答えた。


このようなやり取りが続くと、市場は疑心暗鬼になるものだ。
そもそもパウエル議長は、これまで痛恨の判断ミスを繰り返してきた経緯があるからだ。(この点に関しては、本欄8月1日付「NY金、最高値更新、背景にパウエル議長のトラウマ」に詳説したので参照されたい)


市場の合言葉も「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」に変わってきている。
パウエル氏が、不況入りの可能性を抑え気味に否定すればするほど、市場の懸念は高まってゆく。
その矢先に、1日に発表されたISM製造業景況感指数が前月比で低下して、好不況の分かれ目となる50を4か月連続で下回った。
「解雇」が増えていることも、最新の新規失業保険申請件数が24万9,000件と、一年ぶりの高水準になったことで、明らかになった。
いかにもタイミングが悪い展開だ。
そして1日のマーケットイベントのトリは、時間外で発表されたインテル、アマゾン、アップルの所謂「マグ7」企業の決算発表。
いずれも発表後の株価は下落という結果に終わった。
市場には It is not prettyという日本なら中学校レベルの英語が流れる。
俗語で「見るに堪えないほどの惨状」という意味だ。
市場関係者の落胆度が滲む表現である。
しかも、今晩(2日)には雇用統計が控える。
もはや、利下げの時期や回数を議論する場合ではないとの認識が強まり、代わって、利下げの目的が問われている。
インフレ対応というより、景気テコ入れのための利下げが必要か、ということだ。


なお、市場のセンチメントを悪化させている要因はまだある。
中国経済減速に起因するコモディティ価格急落だ。
景気を占う意味でドクター・カッパーの異名を持つ銅価格の変調がその典型である。
不況に強い安全資産とされるゴールドの価格が同じタイミングで史上最高値を更新していることも、単なる偶然では片づけられない。
ハマス最高幹部暗殺事件も、中東全面戦争のリスクを孕み、原油価格急騰によるインフレ再燃リスクが無視できない。物価と雇用のいわゆるdual mandateのバランスに苦慮するFRBにとっても、想定外のインフレ要因勃発と言えよう。
金と同様に安全資産と位置付けられる「米国債」が買われ、利回りが遂に4%の大台を割り込んだことも衝撃的であった。
日本は歴史的酷暑に見舞われているが、株式市場に限っては、冷房が効きすぎている感がある。

なお、明日3日、午前9時半からのBSテレ東「日経サタデー ニュースの疑問」に札幌からリモート出演して6分ほど、マーケット迷走について語る予定。