22年に今回のインフレが顕在化した当時、パウエル議長は「一過性」と断言した。
痛恨の判断ミスを認めたのが、22年11月。
しかし、インフレ対策としての利上げを決断したのは23年3月。
この空白の5か月の間に、インフレ・マグマは市場の底流で沸々と蓄積していた。
後手に廻った焦りからか、0.75%刻みの利上げを4回続けるという荒療法もやってのけた。
しかし、金融政策の効果が出るには1年から1年半以上のタイムラグがかかる。
例えていえば、臨床実験せずに、強力なワクチンを立て続けに打ち、いまだに、効果点検に手間取っているようなものだ。
はらはら見守る市場の視点では、これだけインフレ鈍化のデータが揃えば、そろそろ点滴を減らしてゆく頃合いではないか、と思われる。
たしかに、インフレは鎮静化に向かっているが、ここで、治療の手を緩めると、病状がぶり返すリスクが無視できない。
いっぽう、点滴をこのまま続ければ、過剰投与で、不況という副作用が危惧される。
31日の記者会見でも「雇用と物価のバランス」という表現が繰り返し使われた。
更に、ここにきて、病院長がトランプ氏に変わるかもしれないという人事問題まで噴出してきた。
新たな財政政策由来のインフレが既に市場ではホットな話題として論じられている。
関税引き上げ、不法移民強制退去、そして法人個人向け大型減税。
いずれもインフレ的な政策だ。
しかし、金融政策の司令塔であるFRBには管轄外のことゆえ、口を挟むことは出来ない。
しかし、結果的にインフレ再燃ともなれば、FRBも連座制の如く責を問われるは必至だ。
おそらく9月FOMCで利下げが決定されるとは思うが、11月の米大統領選挙で仮にトランプ氏勝利となれば、インフレ議論は振り出しに戻るだろう。


低金利を好むトランプ氏の経済政策は、本質的に、インフレ的という矛盾を孕む。
無理やりに経済政策の整合性を保つために、もがけばもがくほど、経済は混乱する。
日本人として気になる円安の問題も、トランプ氏は「大きな通貨問題」と断じてみせたが、米国製品の国際競争力を守るための通貨安政策を捨てる気など毛頭なさそうだ。
結局、現時点では、日銀のサプライズ利上げが効いて、円キャリートレードの巻き戻しが集中。
円相場は150円台を割り込み円高優勢となっている。
しかし、中期の視点にたてば、トランプ氏の意に反し、市場がドル高・円安に戻るシナリオが視野に入ってくる。
そもそも世界の貿易決済システムは米ドルなしでは機能しない。
外貨準備も、米ドル抜きでは、語れない。
代替的に金が外貨準備として保有される傾向も、金価格上昇要因としては重要だが、全体図で見れば、ほんの一部の変化に過ぎない。
国際基軸通貨としての米ドルへの信認が薄れているが、長期的ドル優位の傾向は変わらず、円安も構造問題として残ると思われる。
金本位制復活の議論などは、「過去の遺物」である。
なお、NY金価格は史上最高値を更新したが、円建て金価格は円高要因による下げ圧力が強い。