今回の円建て金価格暴騰は円安要因が効いている。
そこで、今の円安がどこまで続くのか、まとめてみた。
中級者向け原稿。


10日に3月米国消費者物価指数(CPI)を控え、米10年債利回りが4.4%を超え、今年最高の水準を記録した。
1月2月と2回連続で上振れしたので、前回の年率3.8%(コア)を上回るか否か注目されている。
上振れも1回なら統計上のノイズ(雑音)として片づけられる。2回続くと市場は疑心暗鬼になる。
更に3回連続ともなれば、インフレ再燃と解釈される可能性が強い。
更に、11日には生産者物価指数(PPI)も発表される。
このインフレ指標も最近、注目度が高くなっている。FRBが重視するPCEインフレ指数の算出過程で、PPIも使われているとされるからだ。


加えて、10日には3月FOMC議事要旨が発表される。
ここのところ、FOMC参加者の利下げに対する消極的な発言が続いているので、議事録に対する注目度も常になく高い。
ちなみに、本日9日には、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁の講演が予定されている。
同氏は既に、インフレ抑制が難しくなれば、年内の利下げは見送る可能性を示唆して市場を揺らせた経緯がある。
ローガン・ダラス連銀総裁も「利下げを考えることさえ、あまりに早すぎる(much too soon)」と語り、市場の利下げ期待に冷や水を浴びせている。
市場は議事録を精査して、その真意を探る姿勢だ。
その結果、一時は24年7回の利下げまで織り込んだ市場では、今や、2回或いは1回にまで下方修正が相次いでいる。
ドル金利は、高く長く(higher and longer)維持されるとの見解が主流になりつつあるのだ。
かくして、市場がドル金利高に神経質になっている最中に、米国銀行界のリーダー格であるダイモン・モルガン・チェースCEOが「金利が2%まで下がるケースと、8%以上に上昇するシナリオに備えている」との爆弾発言を「株主への手紙」の中に盛り込んだ。
記録的な財政赤字と地政学的リスクがインフレ抑制のプロセスを複雑にしているとの論旨だ。
「市場は米経済軟着陸の可能性を70~80%と見ているが、その確率は非常に低い」と悲観論も展開した。
現状では5.25%から5.5%のレンジにある米政策金利(FFレート)が6%にまで上がれば、銀行システムにストレスがかかる。
市場が、このリスクにどこまで備えているか疑問だ、とも記した。
但し、ダイモンCEOは、これまでも、米国経済が大嵐に見舞われる、などの問題発言をしたが、現実には米国経済が好調に推移していることもあり、プロの間には冷ややかな受け止め方が支配的だ。
しかし、外電報道の見出しには「8%」が使われ、その数字が独り歩きしている感がある。


米債券市場では、10年国債利回りが4.46%まで急騰する局面もあった。
4.5%が節目とされ、10日の10年国債入札の結果も国債需給要因として注視されている。
このドル金利高は、外為市場でドル買い・円売り圧力を強めるので、日本市場にとっても他人事ではない。
既に記録的な円売りポジションがドカ雪の如く積み上がり、いつ為替介入による表層雪崩が起きても不思議ではない。
それでも、ポジションの巻き戻しを急ぐ動きが見えないのは、ファンダメンタルズである日米金利差に本格縮小の見通しが立たないからだ。
日本の金融当局が為替介入に踏み切っても、世界的ドル高の流れに逆らうアウェイの戦いを強いられることになる。
一時的に140円台半ば程度まで円高を実現出来ても、そこから新たな円売りポジション醸成が再開され、結果的にモグラ叩きとなるリスクがある。
日銀の金融政策選択肢には限界があるので、円相場もFRBの利下げ動向が最大変数となる。
更に、米国のインフレが中東地政学的リスクによる原油高で再燃する可能性まで考えると、もはやFRBでさえ制御できるのか、不透明感は強まるばかりだ。
米利下げ開始時期が年後半にずれ込み、それも、大々的政策変更ではなく、「微調整」程度にまず1回実施して経済指標の反応を見極めるという成り行きになる、というのが筆者の見立てである。
大統領選挙を視野に、政治的独立性が保証されているFRBとはいえ、引き締めから緩和へのピボット(転換)には動きにくい時期に入る。
日本側で為替介入が実施されても、8月恒例のジャクソンホール中銀フォーラム開催まで円安傾向本格是正は見込めまい。