以下は、過日、読売新聞への寄稿文の原文です。


能登地震をキッカケに、大地震のような破壊的ショックに対して金地金は耐えられるのか、という質問が増えています。
結論から言うと、耐えられるのです。
大地震ではありませんが、実例があります。
2001年9月11日に起きたNY同時多発テロ事件です。
110階建てのワールド・トレード・センタービルに、大型飛行機が突入して、超高層ビルが崩壊した、あの忌まわしい出来事をテレビ画面で見ていた私が、ふと思ったことは「あそこの金塊の山はどうなった?」ということでした。
実は、あのビルの地下6階に金を8トン保管している金庫があったのです。
NY金取引所が保有する在庫でした。
結果は、全ての金塊が1グラムも不足なく回収されたのです。
さすがに、大崩壊の衝撃で、表面が凹んだ金塊もありましたが、保管金塊の総量は1グラムも欠けませんでした。
金の専門家の私が言うのも変ですが、「さすが、有事に強い金」と感じ入った次第です。
大惨事があっても、金の価値は残るのです。
老後に備え、金を積み立てるという発想の裏付けにもなる話です。
今後、10年、20年後にどんな一大事が起こるか、全く見当もつきません。
避難や改修などの準備も行われていますが、財産を災害から守るということも心掛けておくべきでしょう。
但し、金を現物で自宅の家庭用金庫に保管することにはリスクがあるので、気を付けましょう。


これも実際にあった話ですが、東日本大震災のとき、金塊を保管した金庫が津波に流されるという事例があります。
一般的に、漁師さんは、夫が海難事故で常に死のリスクと対峙しているので、家庭内有事に備え、豊漁のときに、少しずつ金を買い増す傾向が見られるのです。
歴史的高値圏から買い始めて大丈夫なのか、という素朴な疑問もあります。
もっともなことだと思います。
しかし、そもそも金は老後など数十年後に備えるもの。
その間、現時点では想像もつかないようなリスクが顕在化するかもしれません。


更に、これまで人類が採掘した金の総量は、オリンピック水泳プール4杯分程度に過ぎません。
最近は、年間生産される金の1/3を中央銀行が外貨準備として買い占める状況が続いています。
米ドルに対する信認が薄れているのですね。
特に、今年はトランプ大統領が再登場のリスクが世界の市場の懸念材料になっています。
まさに世界はリスクだらけ。
金の供給は増えず、需要は増えるという構図が常態化することになるでしょう。
金1万円は高いという、これまでの常識も見直す必要があります。
もし、金価格が大幅に下がるとすれば、ウクライナ戦争が終結して、中国は台湾の独立を認めるときでしょうか。


なお、日本国内の金価格高騰には円安も強く影響しています。
為替の世界では、ざっくり130円なら円高、140円なら円安という状況です。
100円で円高、120円で円安といわれた時代との対比が鮮明です。
昨年は、ドル建て金価格が大きく動かずとも、円安で円建て金価格が史上最高値を突破する状況が頻繁に生じました。
今年も、依然、円安ドル高の日々が続いています。
円建て金価格が下がりにくい状況が、いきなり変わるとも思えません。
それゆえ、今からでも遅くない。
但し、初心者の方々は、まずは「かけ湯」から始める、つまり、少額から始め、まずは価格変動に慣れてゆくことが大切です。
有事の金の爆買いは悪魔の選択!
地味でも時間軸で分散購入することが重要です。