中国にとって、金は「通貨」として中国人民銀行が外貨準備として買い増す面と、ハイテクに欠かせない素材として長期的に備蓄してゆく面がある。
後者は、さすがに穴を掘って埋めるわけではないが、中国人民に金を保有させ、いざとなれば供出させる意図が透ける。
要は中国国境内に物理的に金地金が存在すれば、金が足りなくなった場合に、召し上げるというわけだ。
全体主義国家ならではの発想である。


筆者は、上海黄金交易所開設と中国大手商業銀行の貴金属部創設に、いずれもアドバイザーとして招聘された。
金の公設取引所を創設する動機について、当時の幹部は「人民に金を保有させるために、国内金売買を促進する」と語っていた。
中国国内の過剰流動性が、放置すると不動産投機に流れるが、金地金で保有すると長期保有になるので、マネーが暴れることはない。」とも本音を語っていた。


金取引所の幹部は、中国共産党の褒賞人事で決められ、経済や金に疎いことが多い。
例えば、筆者が、当たり前のこととして「金の生産者が大量売却すれば金価格は下がる。」と説いたところ「豊島先生、売らせなければいいでしょう」と返してきた。
「売りで下がる」、「売らせない」、と全く発想が異なり、話が進まなくなり、そこの部分は棚上げして、議論を進めたこともあった(笑)


なお、今年も春節には、大量の金が縁起物として購入され、業界にとっては最大の稼ぎ時だ。
但し中国経済悪化により、客単価が減ることを懸念しており、あれこれ販売促進を展開している。
人民元安で人民元建て金価格が上昇したことも、価格効果として金国内需要を委縮させている。
とはいえ、文化的に金選好度が高い国ゆえ、小さくても、金を購入する傾向は変わらない。


添付写真は、筆者が上海で講演した金セミナー風景と、大手銀行支店内での中国金文化説明パネル。

 

上海で講演した金セミナー風景
大手銀行支店内での中国金文化説明パネル

なお、筆者の中国での肩書は「黄金分析師」(笑)。
ワールド・ゴールド・カウンシルは「中国黄金協会」。
怪しい(笑)。