なにかと金が引き合いにだされるビットコイン(別名デジタルゴールド)。
そのビットコインETFがいよいよ今日明日にもSEC(米国証券取引委員会)により認可されるという期待感でNY市場が盛り上がっている。
たしかにETF化すれば、ビットコイン市場は飛躍的な拡大が期待される。
特に、機関投資家にとっては、有価証券化されたビットコインならポートフォリオに組み入れやすい。
ビットコインそのものはコモディティの扱いで監督官庁はCFTC(米国商品先物取引委員会)だが、ETFともなれば、監督官庁はSEC(米国証券取引委員会)になる。
現在のSEC委員長はMITで暗号資産を教えていたゲンスラー氏だ。追い風は吹いている。
既に「ハイテクの女王」キャシー・ウッド氏率いるアーク・インベストメントなどが申請を出している。
昨日は、同氏が、テレビ生出演で「SECからの質問もかなりテクニカルになってきたので、来るべき日は近い」と語っていた。
但し、疑問点も多い。
実は、筆者は、金ETFをNY市場に上場するときに、SECとかけあった経験がある。
そのとき、SEC側は最も気にしていたのはトラッキングエラー(原資産価格との乖離)であった。
原資産である金の価格変動を、誤差を最小限にとどめ、いかに金ETF価格に反映させるか、ということだ。
このためには、顧客が例えば1トンの金ETF買い注文を出したとき、それを自己リスクで受けるリスクテイカーが必須だ。
この買い手と売り手の間の介入役をマーケットメーカーと呼ぶ。
SEC側は、売買が過熱したときを想定してマーケットメーカー3社をつけることを要求してきた。
金を自己リスクで大量に売買できる金融機関は少ないので、3社揃えるために、かなり苦労した。
その経験を踏まえると、ビットコインという、価格変動が極端に激しい資産について、常に売値と買値を唱え、顧客の注文を成立させることは、内部リスク管理が厳格化した金融機関で果たして許されるのか。
はっきりいって無理だと思う。
結局、マーケットメーカーは売値と買値のスプレッド(値差)を極端に開くことになろう。
それでは、顧客が、法外な値付けを強いられる結果になるのは明らかだ。
そもそも、ビットコインに、そこまでトレーディング能力を備えた米金融機関の存在を筆者は知らない。
19日、NY証券取引所で初のビットコイン先物ETFが上場され、オープニングベルとともに売買が始まった。
ETF化により市場には暗号資産投資の裾野が拡大するという期待感が溢れる。しかしビットコインの先物価格に連動するという立て付けゆえ正確にはETF(Exchange Traded Fund)ではなく、ETN(Exchange Traded Note)の範疇に入り、似て非なる商品だ。
決定的な違いはETNが現物のビットコインを購入せず、単に原資産(ビットコイン)価格に連動するということ。
対してETFはビットコイン現物を購入した上で、その上に信託権を設定して有価証券化する。
規制当局も先物価格は商品先物市場を管轄するCFTC(商品先物取引委員会)だが、ETFやETNはSEC(証券取引委員会)である。
既にビットコイン現物ETFも申請はSECに受理され審査中なのだが認可は下りていない。
仮に名乗りを上げるマーケットメイカー候補が現れても、おそらく、EFFの年間信託報酬を高く設定することなどで、収益を確保することになるのではないか。
ネット上の暗号資産売買に特別抵抗を感じなければ、単にビットコインを購入した方が余計なコストもかからずシンプルで分かりやすい。
暗号資産業界としても現物ETFが本丸であり、そのための布石と市場の裾野を拡大するための足場作りの過程と位置付けられよう。
ウォール街の反応を見ても米国を代表するバンカーであるダイモンJPモルガン・チェース銀行CEOは強い表現でビットコインの資産性を否定するが顧客の要請は増えている。
大勢は「極めて投機性の高い商品」と注意を喚起した上で、暗号資産関連商品やサービスの提供を無視できなくなっている状況である。
キャシー・ウッド氏が語った「テクニカルな問題」には、かなり波乱含みの様相が想起される。