12月15日のこと。
米経済テレビで、12月FOMCが終わってから初のFRB高官発言があるというので見守っていた。
発言者はウィリアムズNY連銀総裁。大物である。
それが、いきなり、爆弾発言。
「FOMCで利下げについて議論していない。議論したのは、政策金利が十分に景気抑制的か、ということだ。将来の金利水準を推測することが議題ではなかった」
あっさりパウエル議長の「利下げについて議論した」との発言を否定した。
このパウエル発言が、2,000ドル本格突破を誘発したので、金市場も無視できない。
更に「市場は3月利下げまで織り込みつつあるが」と突っ込まれると「市場は様々な要因に強く反応する。利下げを考えることさえ時期尚早だ」と、先走る市場予測に一石を投じた。
ドットチャートにFOMC参加者19名が各自の政策金利予測を書き入れたが、それが会議の議論の首題ではない、とも語っている。
FOMCでは副議長格で常任投票権を持つ重要人物の発言だけに、金以外のNY市場も、あっけにとられた。
「利下げを議論した」と明言したパウエル議長と、どちらを信じればよいのか。
「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」がトレーダーたちの合言葉になりつつある。
仮に、パウエル氏が、今後、発言を修正するようなことがあれば、ちゃぶ台返しで市場は大混乱に陥るので、落としどころを慎重に模索するであろう、との期待感で、金の下げも2,040ドルから2,020ドル程度で限定的だ。
とはいえ先走る市場へのけん制発言だとすれば、FRB内の亀裂を露わにすることで、中央銀行への信認を毀損しかねない危険な言い回しだ。
他のFOMC参加者も黙っていまい。
既にボスティック・アトランタ地区連銀総裁は、ドットチャートに24年利下げ2回と書き入れたことを認めつつ、緩和への転換は慎重に検討すべきで、拙速は避けねばならないと語っている。
グールズビー・シカゴ地区連銀総裁は、FRBが価格から雇用に軸足を移す時、と発言している。
総じて、引き締めから緩和への転換へのハードルは高く、今後の経済指標データを見守るスタンスである。


このような事態の推移に最も神経質になっているのは、10年債利回りを5%超から3%台まで短期間に引き下げた、債券先物市場の買い方であろう。
年末を控え、いずれポジションを手仕舞う動きが顕在化しよう。
既に含み益はかなりの規模に膨れているので、じっくり出口を模索する心理的余裕があるが、「We must deliver 結果を出さねばならない」という表現で、含み益を実現化する段階が近いことを示唆している。
新雪がドカ雪の如く積もった投機的ポジションが引き起こす表層雪崩が起これば、根雪が現れる。
それは10年債利回りで4%台前半から半ばとなろうか。2年債との逆イールド(長短金利逆転現象)という異常現象は解消されまい。
米大統領選を控え米財政リスクも新たな火種である。
イエレン財務長官は米国債増発懸念を一蹴するが、格付け機関がこの時期に動くと、表層雪崩を誘発するノイズになりかねない。
FRBには管轄外で制御できないリスクゆえ、金融政策主導の資産価格形成の構図が急変する可能性もある。
金価格上昇トレンドの理由が大きく変わる可能性が出ている。
要経過観察である。


なお、ウィリアムズ氏の爆弾発言の写真が、X(旧Twitter)@jefftoshima に出ている。
思わず、テレビ画面を撮った。
筆者も、心底驚いて、あやうく、紅茶を吹き出しそうになったぜ。
このびっくり発言は尾を引くな。