国際金価格に著変なく、外為市場で円相場が一時141円まで進行したので、今日は円高の話。


7日の東京市場で植田発言が円高加速を誘発した後、NY市場では、日々強まる米利下げ観測がドル安が進行した。
日米金融当局の動きを投機筋が先読みした結果、円の値動きが荒くなっている。
米債券市場のボラティリティも異常に高く、一時は5%を超えた米10年債利回りが、短期間で4.1%台まで急落中だ。
ダントツの流動性を誇る米国債市場を代表する10年債が、このような急落を演じるのは極めて稀なことだ。
さすがに、市場では、利下げ観測が「スピード違反」ではないか、との懐疑的見解も強まりつつある。


FF(フェデラル・ファンド)金利の先物取引(fed fund futures)によれば、2024年に予想される各月の政策金利は以下の通りになる。

2024年に予想される各月の政策金利

ちなみに、25年1月には、4.0%が予想されている。
更に、来年5月までに利下げする確率(含む複数回)は8割を超した。
一か月前には5割超であった。
極端な事例としては、来年1月にも利下げの確率まで論じられている。


その主たる根拠の中には、パウエル議長が最も重視しているスーパーコアインフレ率が、今年9~11月期と同5~8月期を比較すると、2.73%まで下がってきていることが挙げられる。
スーパーコアとは、エネルギーに加え、変動の大きい家賃も差し引いた数字で、最も頑固とされるサービス業の家賃に特化したインフレ指標だ。
年単位の前年同期比では3.9%、6~11月期と22年12月~23年5月の6か月比較では3.05%となっている。

 

スーパーコアインフレ率

とはいえ、パウエル議長には、利下げ決断が慎重にならざるを得ない二つの理由がある。
まず、利下げ開始したのちにインフレが再燃する可能性。特に、米大統領選を控え、財政面からのインフレ圧力が強まることになろう。
FRBの管轄外で制御出来ないが、結果的にインフレ再燃となれば、責任を問われるのはパウエル議長だ。
更に、利下げしたことで、市場に緩みが生じ、株価が急上昇して、資産効果により個人の消費が活性化することで、インフレが再燃のシナリオも現実味がある。
市場は12月12~13日開催のFOMC時に発表される、FOMC参加者の金利予測(ドットチャート)に注目するが、その前に、円売り投機筋が、ポジションの手仕舞を急いだことも、急激な円反騰を招いた。
それにしても、市場の観測が先走り加速していることは気になる。今週は、12月FOMC前のブラックアウト期間中で、FRB高官の発言は控えられている。
それゆえ、市場も、発表されたJOLTSなど重要経済指標に対するFRB高官のコメントを聞くことが出来ず、暗中模索の感がある。


そもそもパウエル議長は、ブラックアウト期間入り直前に、「引き締め過ぎと引き締め不足の可能性は五分五分(balanced)」と語り、緩和への早期転換観測をけん制している。
現在の金融環境については、「不確実性が尋常ではなく(unusually)高まっている」と異例の強い表現で語った。
FRBの視点では、市場が予想している来年3月や5月までに、この視界不良感が晴れることに懐疑的であることが伝わってくる。
それゆえ、本日発表の雇用統計や12月FOMCで、円高を後押しした早期利下げ観測が後退すれば、円安逆戻り現象が顕在化しよう。
そもそもfed fund futuresの売買そのものも、基本的に投機的売買ゆえ、日中でも、利下げ確率の数字は、しばしば変わる。
米10年債利回りの5%から4.1%への急落も、まともな国債需給では説明できない。
ここでは、やはり債券投機筋の売買の影響が滲む。
現在は、感謝祭休暇とクリスマス休暇の間の短い期間ゆえ、通常のファンドが新たに外為市場でポジションを作る時期でもない。
円高進行加速については、東京市場に比し、NY市場は冷ややかである。