まず、中東リスクは、バイデン政権が、イスラエルに人道的見地から、地上侵攻を遅らせるように伝えた、との報道で国際金価格が下落。
なお、先週末にはNY先物ベースで2,000ドルを超えていた。
筆者の注目は、今回の火付け役であるイランの動き。
要はイスラエルとサウジアラビアが接近していることが気にいらないので、今回は、支配下のハマスを使った。
中期的に、全面中東戦争に発展するリスクが顕在化する可能性はある。
そこまで悪化しなければ、有事の金は一過性。
それより、気になるのは、米ドル長期金利の急騰。

 

kitco

米10年債利回りが5%前後まで急騰した過程で、逆イールドのスプレッド(幅)はピークの100bps超えから10bps台まで急減した。
不況の前兆として、あれほど市場では警戒されていた長短金利逆転現象が劇的に改善したわけだ。
たしかに、最近発表の雇用統計や小売り売上高などはいずれも米国経済の根強さを示し、将来の景況感を映す10年債利回りが上昇することで逆イールドが解消するのは当然といえる。
しかし、NY市場に、逆イールド解消に向かうという事実を歓迎する見方は少ない。
その最大の理由は、10年債利回り急騰の主たる理由として、今や米財政懸念が急速に浮上しているからだ。
米債券市場では、10年債や30年債の入札不調が問題視され、米国債最大の買い手であったFRBがQTへ移行したことにより米国債保有を減らしつつあることが、大きなリスクとして再認識されている。
米国議会下院のドタバタ劇を見せつけられた世界の米国債保有者たちも、「果たして米国債は安全資産といえるのか」と改めて自問自答し始めた。
いっぽう、米債券市場の供給サイドを見るに、米国債増発は不可避で、既に米大手格付け機関2社は米国債を格下げした。
米国債発行の司令塔である財務長官が元FRB議長のイエレン氏というのも、皮肉なめぐり合わせだ。
同氏は、FRB議長時代に、「米国財政はアンサステナブル(維持不可能)」と断言していた。
まさか、数年後に自らがバイデン政権の財務長官の椅子に座り、アンサステナブルではない、と擁護する立場になろうとは思いもしなかったであろう。
そして、現FRB議長パウエル氏は、米10年債利回り急騰について聞かれ、それはFRBの管轄外と答えている。
しかし、理由の如何を問わず、インフレを制御できなければ、その責はFRB議長が負う宿命にある。


ちなみに、バイデン政権の経済司令塔であるブレイナードNEC(米国家経済会議)委員長は、前FRB副議長で、利上げに慎重なハト派の主導格であった。
しかし、今や、同氏は10年債利回り5%問題については、一切発言を避けている。
やはり、矢面に立つのは現FRB議長のパウエル氏だ。
パウエル氏は、政策金利を来年後半まで5%台に維持することで、インフレを根絶やしにしたうえで、利下げに転じる、との見方もある。
しかし、財政要因のドル金利急騰であれば、どうなるのか。
投資家サイドが、これまで安全資産とされた米長期債を保有するために求める「タームプレミアム」が高止まりするのも、当然の結果であろう。
最近のFRB高官発言のなかには、民間のドル金利急騰は、FRBの利上げを代替する、との発想が目立つ。
FRBがもはやコントロールできない状況で、苦肉の説明とも映る。
米10年債利回り5%問題が示唆する市場環境激変の根は深い。この財政要因を筆者は重視している。