円安による円建て金価格の史上最高値更新が、頻繁に生じている。
そもはや、円安次第と言っても過言ではない。
そこで、本稿では、先週金曜日の日銀会合で、円安傾向が長期化する可能性について記しておく。


そもそも日銀金融政策決定会合は、昨年まで、NY市場で見向きもされず話題にもならなかった。
それが、新総裁が就任後、政策修正の可能性が報じられると、急に、注目度が高くなった。
下調べしているようで、日本時間昼過ぎには、声明文発表、午後3時半からは記者会見と既に心得ており、「当方は深夜だが、なにか異変あれば、かまわず電話してくれ」と頼まれることも珍しくなくなった。
彼らの関心は、まず、金利のない市場環境に慣れ切った日本の機関投資家たちが、日銀政策修正を受け、保有米国債売却から日本国債購入へ、運用資金のレパトリを、どの程度行うか、という事だ。
日本は、いまや、最大の米国債保有国(除く米国)ゆえ、その売買動向を米国債券市場は常にチェックしている。
米国側から見れば時間外となるアジア時間帯でも、米国債売買は行われるので、NY時間の早朝から値動きをフォローしている「early bird 早起き鳥」も少なくない。
そこでの米国債利回り変動が、NY市場オープン後の債券価格変動を誘発する事例も少なくない。
更に、NY外為市場でも、円売りポジションが最大級の規模まで膨らむなかで、日米金利差に影響を与える植田発言への注目度が高まっている。
但し、新総裁がイールドカーブ・コントロールやマイナス金利について、語れば語るほど、日銀の持ち札の限界も露わになる。
植田氏は、英語が流暢で、公式の場で英語でジョークを飛ばすほどなので、過去の日銀総裁に比し、欧米市場の親近感は強い。
しかし、同時に、円安抑制が日銀にとって難題であることも伝わってしまう。
ポルトガルのシントラでECBが主催した中央銀行フォーラムで、植田氏が、パウエル・ラガルド氏らと壇上で議論したときのことだ。
植田氏が「私は20年以上前に日銀審議委員を務めたが、そのときの金利は20から30ベーシス(1ベーシスは0.01%)であった。
それが今はマイナス10ベーシス。
金融政策が効果を発揮するのには25年はかかるのではないか」と即興のジョークで応じたときのこと。
瞬間的に会場は拍手も交え笑いの渦と化した。
しかし、同時に、日銀の政策修正は「氷河の移動並みのスローペース」とも評され、円売り投機筋に自信を与える結果にもなってしまった。
植田総裁が、読売新聞インタビューでマイナス金利撤廃に言及したときも、牽制発言のはずが、「やっと金利が消えた時代からの脱出の段階」と意識され、結果的に148円台までの円売り攻勢を抑制できなかった。
欧米市場での好感度は高いので、植田氏に対する同情論も目立つ。
「彼は、そもそもno win勝ち目がない状況に置かれている。
誰が日銀総裁になっても、妙案はない」とも言われている。
なお、為替介入も当然話題になっている。


ときあたかも9月FOMCで、ドル金利が「高く、長く」続くことがほぼ確認されたので、実弾で円売りを抑え込んでも、グローバル規模のドル高の潮流には逆らえず、介入で円高に大きく振れれば、そこから新たな円売りポジションを醸成する投機筋の意図が透ける。
今回は、介入が、もぐらたたきになるリスクを孕む。