世界の金市場といえば、ロスチャイルドの黄金の間で毎日2回行われたfixing(建値)が象徴的で、ロンドン市場の名前が挙がったものだ。
 

しかし、近年は、NY市場が価格主導権を握り、ロンドン市場の影が薄くなっている。その背景には、プロの間の金売買が高速取引・プログラム売買・アルゴリズム売買に移行して、AIが介入。
トレーダーという人間とは異次元の世界で金価格が決まるという構造変化がある。
しかも、NY市場では、「ゴールド専門トレーダー」の数は極めて少ない。
人事異動で、株式・債券・外為トレーダーが金担当に任命される。
金に関する知見がなくても、結局、ドル金利・ドル相場で金価格が決まるので、金に関する専門知識を持つというモチベーションも薄い。
例えば、ゴールドマン・サックスでは、原油の専門家が、金も兼務している。

金需給が価格変動要因になることも稀だ。
中央銀行の金購入・金ETF残高は重視されるが、金ETFに関しては、短期売買に利用されることが多く、以前のように中期的相場動向を読むためのデータとしては使い勝手が悪くなってきた。
中央銀行の金購入にしても、今年は昨年を下回りそうだ。とはいえ、需給要因としては最重要項目ではある。


そもそも、金市場はギルド的な面が強く、ゴールド・トレーダーも対カンパニーより横の繋がりのほうが強かった。今でも、LBMAなど金業界団体が主催するイベントでは、世界中から金関係者が集うが、なにやら小さな市場内での傷の舐めあい的な雰囲気が強く、筆者は距離を置いている。


来年の金予測にしても、結局は、米国の利上げから利下げへの転換時期と、利上げの副作用としての不況の度合いが肝で、需給要因として中銀金購入と金ETF購入が、二次的な影響を与えることになろう。
来年は、ドル建て金価格が急騰して、円高が相殺要因として働くと見ている。
あとは、例えば、上海金市場のプレミアムが高いとか、業界紙ネタのような話が、業界内では注目されるが、マクロ視点では、人民元防衛を優先する中国政府の「ステルス」輸入規制であり、大した話ではない。
広大な領土ゆえ、密輸を取り締まることなど、不可能だ。末端では、正規輸入でも不正規輸入でも、溶かせば同じ金となり、判別は出来ない。
筆者もWGC時代には、年間需給の辻褄合わせに苦心したものだ。それゆえ、統計数字もほどほどの眼で見ている。


小さな金市場が、大きな外為市場、債券市場、株式市場に囲まれていることを、割り切って見るべきだ。
金にはコモディティーとマネーの二面性があるが、後者の金融商品としての金のほうが存在感を強めている。
生え抜き金専門家の筆者には、ほろ苦い成り行きだが、今は、割り切っている。
そもそも、金価格は世界経済を映す鏡なのだ。

なお、今週は原油急騰がNY市場では圧倒的な話題だ。
原油が急騰すると、人々のインフレ期待感が上昇してしまい、個人が消費に慎重な姿勢になる(消費性向が下がる)リスクがある。
これは金にとって買い要因となる。


そして、今日はいよいよCPI発表。さて、どうなるか。


来週のFOMC控え、極めて重要である。