8月24日読売新聞朝刊に載った筆者寄稿の原文を以下に採録しておく。
トルコのイスタンブールといえば、狭いボスポラス海峡をはさみ、アジアとヨーロッパの境という戦略的な要所にあります。ロシアのウクライナ侵攻にしばしば登場する、ロシアの黒海海軍部隊は、その奥を基地としています。それゆえ、トルコでは、国民が有事に備え金を買う事例が目立ちます。更に、エルドアン大統領率いるトルコ政府も近年、公的金準備を着々と増やしてきました。
ところが、今年4-6月のこと。トルコ政府が突然、公的金保有から約150トンもの金を売却したのです。なぜでしょうか。
今年に入り、トルコの通貨リラは暴落していました。経済政策の迷走でインフレが加速したのです。その過程で、トルコ・リラの投機的売り攻勢に対抗するため、為替介入が実施されました。そこで、「お宝」の金を売り、米ドルを調達することで、トルコリラ買い・米ドル売りの資金を調達したわけです。
あれ、有事の金は買いではないのか、と思われるかもしれません。
しかし、実際には、「平時」に金を着々と買い増し、いざ「有事」のときに、その金を売って凌ぐのが、本来の「有事の金」の意味なのです。プロは、有事の金買いが囃され、金価格が急騰したところで、ちゃっかり「利益確定の売り」に走るものです。
「有事だ!金は買いだ!」と煽られ、結局、高値掴みするのは、個人投資家ということになりますから、ご用心!
筆者は「有事の金のドカ買いは悪魔の選択」と説いています。
いっぽう、スイスでは、これぞ、「有事の金」の本来の姿、ともいうべき事例を目撃しました。
スイス銀行で貴金属トレーダーとして勤務していた頃の話ですが、ある晩に同僚の家庭にディナーに呼ばれました。そこで奥さんが見せてくれたのが、分厚いアルバム。開くと、1ページ目には、7歳になる娘さんの1歳の誕生日の写真と、金貨が一枚貼られていました。2ページ目には2歳の写真と、また、一枚の金貨。聞けば、娘が嫁ぐ日の前の晩に、20数枚の成長の記録写真と金貨で膨れ上がったアルバムを母から贈るのだそうです。将来、万が一、嫁ぎ先がつぶれてしまうような「家庭内有事」が起こってしまったら、この金貨を売って凌ぎなさいというメッセージも込めて。
これこそ「有事の金」の原点だと思いました。それゆえ、筆者は、毎月地味に金を買い増してゆくことこそ、金の資産運用の王道だと断言しているのです。
なお、トルコでは、国民が主としてインフレ・ヘッジとして金を買いまくり、最新の需給統計では、今年4-6月期に47トンもの金が個人投資家により購入されています。
日本でも久しぶりに物価上昇が顕著な事態となり、連日マスコミを賑わせていますが、案の定、インフレ・ヘッジで金を買う人が目立ち始めました。
やはり、紙幣の価値が、物価上昇で、目減りしてゆくとき、資産運用で買われるのが金なのですね。日本では、デフレの時代が長かったために、「インフレに備える」といっても、ピンとこない状況でした。しかし、ここにきて、物価が上昇しても、実物資産で且つ希少貴金属として独自の価値を維持する金が見直されているわけです。
とはいえ、金価格は毎日変動します。いつ買ったらよいのか。最安値で買うなどプロでも至難の業ですから、毎月、定額で積み立てることが、長期的には、最も効率的な金の買い方なのです。今や、株の世界でもNISAなどを通じて、積立法が主流となりつつありますが、金の世界では1980年代から「定額で毎月積み立てる」手法が導入されていたのです。さきほど、スイスの金貨アルバムの話をしましたが、もし、仮に、そこに貼られていたのが昔の「株券」だったら?かなり生々しいですよね。金貨だからこそ娘を思う母の気持ち伝わるの愛情を受け取る側はシミジミ感じるものです。ですから、筆者は金の価値は、希少金属の価値に加え、センチメンタル・バリュー(感情価値)があると、説いています。
なお、老後の資産設計の一部として金を買い増す動きも見られます。平均年齢28歳の女性が30名ほど集まったゴールド・セミナーで、事前アンケート調査で、なぜ参加する気になったのか、その動機を問うたところ、7割が同じ回答をしました。それは「老後」。氷河期の女性が、20歳台から、もう老後の心配をする時代になったのかと、あらためて、思い知らされたものです。実際にセミナー会場の雰囲気も「金で一儲け」のムンムン感は皆無に近く、サラサラとメモをとる音だけが響いていました。オブザーバーで参加していた知人が「まるで予備校の講義みたい」と目を丸くしていましたよ。質疑応答でも、氷河期世代ゆえ、「儲け話」には本能的に「怪しい」と感じ、「金は破綻して紙屑になることがない」ことに注目度が高いことが確認できました。「資産運用ではリスク分散が重要」というと難解に感じる人でも、毎月コツコツ、と語ると「なるほど」という反応が返ってきたものです。
先が読めない時代だからこそ、金を資産の10%程度、組み込んで、「まさか」に備えることが、共感を生むのですね。
以上
さて、今日の札幌は35度。東京の32度より暑い!
異常としかいいようがない。北海道では、小二の児童が体育の時間後に熱中症で死亡という痛ましい事例も報道されている。
さすがに、今日は、筆者も外出は控え、シャキシャキ食感が特徴の富良野スイカ食べながら、しょうがないから仕事している次第(笑)
気候が暑いとスイカは甘い。ブランド知名度は低いが「雷電」スイカも旨い。
旨いものだらけの北海道だが、それを本州に運ぶサプライチェーンが今問題になっている。
玉ねぎ列車とか、鉄道貨物への依存度が高いのだが、新幹線札幌乗り入れに伴い、在来線の小樽―長万部(函館方面)間が貨物専用になってしまう。とても採算にのる話ではない。トラック輸送では限界がある。結局、国が負担することになるのかね。ちなみに、新幹線工事も、羊蹄山の下で、とてつもなく堅い岩群に阻まれ、大苦戦中。札幌駅も新幹線プラットフォーム建設で、大工事中。筆者行きつけのレストラン街やショッピングビル(エスタ)が相次いで閉館となり、参ったよ~生活必需品仕入れの場である隣駅の桑園(そうえん)のモールへの道も資材置き場になってしまった。ちなみに、このモールは、屋上が、なんと自動車運転教習所になっているほどの面積。暑い日には、ここでショッピングするだけで、5000歩くらいの運動になるよ。
まぁ、来年夏からの札幌サテライトオフィスは、諸々、変化を強いられそう。