今回の日銀政策修正に対する市場の荒い反応について、NY市場ベテランの一人が1997年に当時の橋本首相が訪米した際の現地発言を受けて、NY市場が混乱したことを、過去の事例として挙げていた。
NYタイズムは、当日の模様を以下のように纏めている。
「日本は、米国債を売り、金を買いたい衝動に駆られることがあるかもしれない、との橋本首相のコメントにより、ダウ平均はブラックマンデー以来、最大級の下げを記録した。日本政府は、その後、同発言を否定している。」
この問題発言は、1997年6月23日、米コロンビア大学での講演のあとの質疑応答で飛び出した。
質問者「日本や日本の投資家にとって、米国債を保有し続けることは損失をこうむる事にならないか」
橋本首相「ここに連邦準備制度理事会やニューヨーク連銀の関係者はいないでしょうね。実は、何回か、財務省証券を大幅に売りたいという誘惑に駆られたことがある。ミッキー・カンター氏(元通商代表)とやりあった時や、米国にみなさんが国際基軸通貨としての価値にあまり関心がなかったときだ。(米国債保有は)たしかに資金の面では得な選択ではない。むしろ、証券を売却し、金による外貨準備をする選択肢もあった。しかし、仮に日本政府が一度に放出したら米国経済への影響は大きなものにならないか。
財務省証券で外貨を準備している国がいくつもある。それらの国々が、相対的にドルが下落しても保有し続けているので、米国経済は支えられている部分があった。これが意外に認識されていない。
我々が財務省証券を売って金に切り替える誘惑に負けないよう、アメリカからも為替の安定を保つための協力をしていただきたい。」
冒頭発言で軽いジョークのニュアンスは伝わるが、筆者は、正論と思い、発言記録をアーカイブに保存したものだ。
現在でも日本は世界一の米国債保有国で、二位の中国を上回る。
米財務省データによれば、2023年5月時点で、日本が1兆968億ドル。中国が8,467億ドルだ。
米債券市場では、日本の「セイホ」など機関投資家の米国債売買状況が常にウォッチされている。
時間外の「日本時間帯」でも米国債利回りが変動することも珍しくない。
その事例を丁寧にまとめたレポートを米大手投資銀行の債券アナリストが発表したこともある。
それゆえ、今回のような日銀政策修正があれば、当然、米国債市場は敏感に反応して、ドル金利は動く。
特に、市場は、橋本発言のときと変わらず、真相が読めず、乱高下しがちだ。
今回も、植田発言とその真意を正確に読み切れず、ドル相場や株価が大きく変動している。
筆者は、日本が最大の米国債保有国であることを、対米通貨外交において、明確に主張すべきと考える。
米国側は日本を為替監視国と指定することもあるのだから、日本側も忖度せず、論じるべきだ。
橋本発言を「恫喝」と報じた外電もあったが、冷静に且つスマートに現状認識を共有すべきであろう。
バイデン政権の財政大盤振る舞いの一部を、日本国民が負担していることは事実なのだ。
今後、植田日銀が金融正常化への道を歩む過程で、日本市場を見る米国市場の眼は明らかに変わった。
「債権国」としての日本の立ち位置も、これまでより認識されてゆくであろう。
さて、週末は再び札幌郊外農園レストラン、アグリスケープに。
今日の写真は、農園の様子。
広大な敷地に、さまざまな野菜、シェフのハーブ、豚、鶏を飼育。
種から選んで育てた野菜や、抗生物質やホルモン剤を使用せず飼育した鶏(プレ・ノワール)や黒豚。
素材の採りたて、さばきたて、を提供する。
ここまで徹底した素材にも恵まれ、吉田夏織シェフは、持ち前の料理センスで、自然を細やかに味わえるメニューを提供しているので、何回行っても飽きない。