円建て金価格の史上最高値更新が続いているのは、やはり、円安の影響が大だ。
今年はドル建て金価格も2,000ドル近辺まで水準を切り上げるなかで、円安同時進行となっている。
特に、世界の外為市場では、基軸通貨ドルに対する信認が低下するなかで、ドル安現象も見られるのに、円と人民元だけが対ドルで独歩安である。
その理由は簡単。
日銀と中国人民銀行だけが、世界の中銀の金融引き締めという潮流に反して、金融緩和路線を歩んでいるからだ。
植田新総裁が、ジョークながら、「私が20年前に日銀の審議委員であったころの金利は0.2%とか0.3%。今はマイナス0.1%。金融政策の効果が出るには25年かかる(会場爆笑)」とポルトガルの主要中銀総裁会議で語ったことが象徴的だ。
かたやFRBは一年で5%も金利を引き上げている。日銀の動きが、氷河のごとくスローであることが鮮明だ。
それゆえ、植田新総裁が、政策修正を仮に語ったところで、欧米の基準では大した話にはなるまい。
そこまで読み切って、投機筋も円売り攻撃を仕掛けている。
今年の円安は、昨年の150円超までは行かないにしても、円安水準が長く続きそうだ。
「もはや100円まで戻ることはないのでは」とまで言われるようになった。
ご存じ、筋金入り円安派の私としては、我が意を得たり、ということか。
日本の消費者物価が上昇しても、ドル建て資産を保有していれば、十分に輸入物価上昇のヘッジになる。
円建て金価格には為替面から上げ圧力がかかる状況が長引きそうだ。


なお、金の下支え要因として、利上げの副作用である景気後退が指摘されるが、経済統計は、良い悪いマチマチだ。
そこで、不況の兆しとされる米国の逆イールド現象が金市場でも注目される。
10年債の利回りが、2年債の利回りより低いという異常な現象である。
過去の事例では、この長短金利逆転現象が起こると、その後で、不況になっているので、市場では確率の高い不況指標として注目されるのだ。


以下に、中級者向けに、逆イールドの話を纏めた。


タイトルは「逆イールド、81年以来の開き、なぜこの時期に」。


3日の米国市場は、独立記念日前日で半ドンであった。
総じて、取引も薄いなかで、市場がざわついたのは、債券市場で異変が生じたからだ。
取引時間中に、不況の前兆とされる逆イールドの幅が109ベーシスを超えたのだ。
これは、1981年9月18日の111ベーシス以来のことである。


今年に入っても、米国銀行破綻が続くなかで拡大した107ベーシスをも上回る。
やはり、インフレが想定以上にしつこく、FRBが政策金利を6%近くまで引き上げ、なおかつ、その高水準を少なくとも年内、更に場合によっては来年にかけてホールド(維持)する姿勢に傾いているので、米債券市場は、その副作用としての景気後退を懸念しているのだ。
さらに、銀行不安も消えたわけではない。
FRBのストレステストに大手金融機関は合格したが、中小の銀行には不安材料が残ることをパウエル議長自ら認めている。
1年超で政策金利を500ベーシス以上、引き上げても、その政策効果が以前判定できないことも不安視される。
史上最速の5%以上の利上げといっても、その前のゼロ金利期間が長かったので、利上げの大半は、アクセルを踏んだ状態を徐々に緩めることに費やされた。
真の意味で、ブレーキを踏んだのは、利上げ幅のなかで直近の2%以下、期間にして、せいぜい半年超にとどまる。
その結果、政策金利との連動性が強い米2年債の利回りには上げ圧力がかかり、利回りも5%の大台が視野に入る。
対して、将来の景況感を映す米10年債利回りは、資金需要低迷を見込み依然3%台である。
そもそも、米10年債は市場の流動性も断トツに多いので、安全資産としての需要が根強く、買われやすいので、利回りには下げ圧力がかかりがちだ。
この場合の安全資産とは、「質への逃避」というより「流動性への逃避」といえよう。
あの911の米国同時多発テロのときでさえ、最初に取引を再開したのは米国債市場で、なかでも10年債売買が中心となった。
いつでも売買できる、という安心感は、リーマンショック時に取引量が枯渇して売りたいのに売れず、蛇の生殺しの如き恐怖を体験した者でなければ分かるまい。
現状の米債券市場は、債務上限問題が暫時妥結され、それまで凍結されていた新規債発行が急増する時期に入るので、債券市場の需給を見れば、供給過多で債券の値は下げやすく、利回りは上げやすい。
にもかかわらず、10年債の利回りは伸び悩み、2年債との長短金利差逆転現象が顕在化している。


そもそも、市場がFRBを信じていないことも、逆イールドが発する不安感を増長させている。
更に、信じていないにもかかわらず、結果的には、FRBの見解がこれまでは勝ってきた。
具体的には、市場は今年後半にも利下げに転じ、年内2~3回は利下げがあると見込んでいたのだが、今や、利下げは24年にずれこむとのFRBの見解を認めざるを得なくなった。
パウエル議長に至っては、利下げなど「論外」と言わんばかりの姿勢を貫いている。
かくしてFRBを敵にまわし「FRBを疑え」が市場の合言葉になった時期は過ぎ、今や「FRBには逆らうな」とまで言われるようになっている。
しかし、マーケットの底流には、中央銀行に対する不信感が残る。
このような状況が続く限りは、逆イールド現象は解消されまい。


以上