円相場が140円台に乗る局面が出てきた。


2022年と2023年の円安を外為市場の指標で比較すると、最大の違いは、ドル・インデックスにある。150円を突破した22年10月には、ドル・インデックスが110の大台に乗っていた。世界的にドル高基調で、通貨の世界ではドルはキング(王様)と呼ばれていた。しかるに、今年はFRBの利上げも最終段階と見られ、基調はドル安だ。ドル・インデックスも一時は100の大台割れ寸前まで下げた後、現時点では、104台まで反騰局面にある。


しかも、今年は、史上最速利上げの副作用ともいうべき米国銀行破綻が相次ぎ、国際基軸通貨としての米ドルへの信認が低下している。新興国の中央銀行が外貨準備で保有するドルを売り、ドルへの不信任票ともいえる金の買い増しに動くという異常な現象も常態化している。債務上限問題もドル不安の大きな要因となっている。


そのさなかに、NY市場では、国際通貨投機筋によりドルが買われ、円が売られ、円の対ドル相場は140円を突破した。


注意すべきは、投機筋の台所事情が、昨年とは異なっていることだ。今年は、FRBが引き締め策の出口を模索する年と位置付け、ドル売りポジションを増やしていたのだ。ところが、歴史的利上げにもかかわらず、米労働市場は依然強く、特にサービス業の賃金は下がらず、FRBが最も重視するPCE物価指数は4%台で高止まりしたままだ。5月で利上げ打ち止めのはずが、一転、利上げ継続の観測が強まっている。投機筋は、早々とドル売りポジションの買い戻しに動いた。更に、ターミナル・レートが6%とのFRB高官発言が出始めるや、「倍返し」のドル買い・円売りに転換した。取引量が公表されないインターバンクでの売買が多く、実態は把握しにくいが、想定より大きな規模に達している可能性は捨てきれない。


今年は投機筋もおっかなびっくりだ。まず、日銀総裁が変わった。FRB内部のタカ派対ハト派の亀裂も深まっているが、昨年からFOMC参加者の人事異動が相次ぎ、FRBの本音が読みにくい。


そこで、注目点は、来たる6月13,14日に開催される6月FOMCだ。参加者の金利予測分布をまとめたドット・チャートが発表されるからである。FRBが、政策金利は「(水準は)高く、(期間は)長く」との基本姿勢を明確に変更しなければ、ドル買い・円売りが加速するリスクがある。


更に、日銀総裁発言も昨年に比し注目度が高い。介入という伝家の宝刀は温存したまま、植田総裁の一言で、投機的円売りが萎えるような地合いでもある。世界的にも、利上げを続ける国もあれば、停止する国もある状況で、グローバルな視点では金融政策の先行きが混とんとしているからだ。


中期的な転換点としては、8月下旬恒例のジャクソンホール中央銀行会議を筆者は重視している。


円安マグニチュードは、昨年を7とすれば、今年は5程度と筆者は見ている。