筆者は、スイス銀行外国為替・貴金属部出身である。
クレディ・スイスの問題が再び顕在化したので、私見を纏めてみたい。
結論から言うと、スイスにとって大きすぎて潰せない。
小国スイスの基幹産業は旅行と国際金融であり、大手銀行は実質的に国策銀行のようなものだ。
破綻危機となればスイス国立銀行と金融監督担当の機関が絶対つきで救済に廻る。
既に実際に動きが出てきている。
これまでの事例では、まず、つれない態度で応じ、結局、救済に廻るというかたちをとった。
しかし、今回はアクションが速い。
シリコンバレー銀行破綻の影響で信用不安が強まっている環境に市場が置かれているタイミングゆえであろう。
財務基盤も危機的とまではいえない。
クレディ・スイスは、アルケゴスなど、これまで数々の金融スキャンダルに関与してきたので、大リストラを発表して、そのために新CEOもリクルートされた。
まず大幅人員削減。
更に行内では稼ぎ頭であったインベストメント・バンキング部門にメスを入れている。
儲けている部門は切り売りして、そもそもの得意分野である富裕層向け資産運用部門に経営資源を集中させる計画だ。
しかし、今回の一件で、傷が深くなれば、UBSとの合併も視野に入る。スイスのナショナルフラッグの銀行というわけだが、チューリッヒ市場の地盤低下を考慮すれば現実的案かもしれない。
そもそも、スイスの銀行の歴史は合併の歴史であった。
筆者が在籍したスイス銀行もドイツ語名はスイス合同銀行。
それが、更にUBSと合併して、今や、三つの鍵の旧スイス銀行トレードマークがUBSのマークとして残る。
両行の得意分野も、UBSは引き受け部門、SBC(スイス銀行)はトレーディング部門と補完的であった。


スイスは小国ゆえ、国内ビジネスは極めて限定的だが、実権はスイス国内の本社が握る。
しかし、国内派は、デリバティブなどインベストメント・バンキング部門に関しては素人だ。その結果、NYの同部門の独走が目立ち、高収益部門ゆえ、傍観の姿勢を余儀なくされた。
アルケゴスなどの金融スキャンダルに巻き込まれても、懲りずに、インベストメント・バンキング部門は営業を続けた。
しかし、NY市場では、やはり、米系が地の利もあり有利だ。
インベストメント・バンキングリストでも米系大手5社の次にかろうじて顔を出していた。
アルケゴスのときには、スイス系と日本系が逃げ遅れ、他社に比し巨額損失を計上する結果になった。
既にこれまでに取り付け騒動の洗礼も受けている。
特に、海外の富裕層マネーが流出していることは痛い。
大怪我の傷が癒えないのに、新たな問題を背負うことになった。
今回は二つの問題が市場の不安感を煽った。
まず、過去の財務報告の内部管理に「重大な弱点」があったとの発表。
あきらかに、大型リストラにより、社内のモチベーションが大幅に下がっている。
更に、筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクが追加投資せずとの報道。
切羽詰まって中東マネーに頼ったが、結局、資金ベースの脆弱性が露わになった。
いずれも、致命的ともいえる現象だ。
スイス当局が、シリコンバレー銀行のように、引き受け手を入札で募集しても、おいそれと適当な相手が見つかるとも思えない。
おりから金融不安により他社のリスク管理は厳しくなっている。
筆者のチューリッヒの友人のコメントが印象的であった。
「昔の日本では親が決めるお見合いと言う結婚形式があったと聞いているが、いまどきのクレディ・スイスの場合も、強制結婚の形式が考えられる。しかし、お相手探しには、相当に手こずりそうだ」


さて、NY金は依然強含み。(KITCOグラフ、緑色線)。

 

kitco

クレディ・スイス問題にも反応している。
原油が60ドル台まで暴落したので、コモディティセクターで原油から、信用不安に強くリスク分散効果も見込める金にマネーがシフトしている。
ドル円はドル金利暴落でドル安=円高。
この問題も含めて、今朝、70分ほどYouTubeライブをやった。

第一部 クレディ・スイス 第二部 信用不安の市場への影響 第三部 ゴールドどうなる。



https://youtube.com/live/n77luy7qzF8?feature=share