昨晩、米上院銀行委員会が開催され、パウエル議長が、政策金利をこれまでの想定より引き上げ、且つ、高水準を維持することを明言。
市場の想定もターミナルレートが5%台後半から6%近くまで切り上がった。
ドル金利は上昇。特に政策金利に連動する米2年債利回りが5%に接近。
10年債は4%台。逆イールドは遂に100bp(1%)に拡張した。
外為市場ではドル高円安。その結果、金は売りを浴びた。
KITCOグラフ赤線が示すように1,810ドル近傍まで下落。

 

kitco

但し、これからが本番。
今週金曜には米雇用統計。
来週の14日にはCPI、15日にはPPIと米小売売上高と重要経済指標が発表される。
その直前の7~8日に、米上院銀行委員会が開催されたわけで、結果的には、このスケジュール立てに無理があった。
最新重要指標動向を確認した直後の16日以降にこの公聴会がセットされていれば、パウエル議長も、「データ次第」で臨機応変の答弁が出来たはずだ。
例えば、2月雇用統計で、新規雇用者数が1月の50万人超から20万人程度に減少して、更に、1月の数字が下方修正され、失業率は3.5%と僅かながらも上昇すれば、パウエル議長も、ディスインフレーション傾向を語り続けることが出来たであろう。
しかし、2月雇用統計発表の3日前では、「FRBはディスインフレーションをクリエイト(創造)すべく動いている」「コアのインフレ率が下がってはいるが、未だ十分とは言いかねる」「これまでの利上げの効果を未だ全て確認できているわけではない」と、暗中模索を想起させるごとき答弁を繰り返さざるを得なかった。
しかも、議会公聴会は、FRB議長を「被告席」の如き位置に座らせ、3時間前後、しかも2日間に亘り、議員たちが入れ替わり3時間近くも「尋問」する。
なかにはエリザベス・ウォーレン上院議員のように強いアンチFRB派もいる。
多くの議員は、金融政策には疎く、自らの選挙区での経済問題を引き合いに出す「パフォーマンス」が目につく。
7日には、自らが10%の金利で長期融資を受けた「失敗話」を持ち出す議員もいた。
そこで思い出されるのは、イエレン元FRB議長(現財務長官)の議会公聴会での対応ぶりだ。
生粋の経済学者らしく、学生に対して、噛んで含めるごとき説明を、丁寧に辛抱強く3時間続けていた。
同氏特有のブルックリン訛りも、上から目線になりがちな答弁のトーンを中和させていた。
対して、パウエル議長は、素っ気なく言ってのける傾向がある。
昨晩は、珍しく「中立金利」について、議員の質問に答えるかたちで説明していた。
各議員の質問時間は10分と決められているのだから、イエレン流に丁寧に説明して時間を稼ぐ手もあったであろう。
それが「議員との対話」の極意のようなものだ。


なお、7日の米国株式市場では、ダウ平均が、パウエル議長証言の前後に亘り、ほぼ一貫して下げ続けた。
通常は、冒頭の金融政策報告書に関する議長声明読み上げに、要旨が盛り込まれているので、市場の反応も最初の20~30分程度に集中する。
結局、昨晩のNY市場波乱は、議員の質問へのパウエル氏答弁に、ところどころアルゴリズム売買を発動させるような表現が入ってしまったことも一因だ。
例えば「引き締め過ぎを示唆するような経済データはない」。
これでは、まだまだ引き締め余地が多く残ると解釈される。
「サービス業セクターの頑固なインフレに対して、我々が出来ることは少ない。(金融政策効果は)強いが鈍い」
これでは、お手上げ感が強い。
「中立金利がどの程度か分からないことが問題だ」
これも、無力感が強い。


筆者は昨晩の公聴会長丁場の最中に所謂「HFT株式投機筋」の人たちともZOOMで話し合ったのだが、「パウエルさんのおかげで大儲け出来た」との高笑いが印象に残った。
結局、重要経済指標発表直前のFRB議長議会証言というスケジュールは、彼らには絶好の草刈り場となっていたのだ。
10日の雇用統計後も来週にかけて、更なる大儲けのチャンスがあるので、ほくそ笑んでいる。
金市場でも同じこと。
それゆえ、筆者は、昨晩の金1,810ドルを、気配値程度にしか見ていない。
当面、ちゃぶ台返しリスクが、ついてまわるからだ。
まともなファンドは、運用に関しては傍観に徹している。
米短期国債で年率5%前後もいただけるのなら、それで十分との考えだ。
まずは、なんといっても、10日発表の2月雇用統計に市場の注目が常にも増して高まっている。
そこからがNY金価格の「本番」である。