1月31日―2月1日に開催された今年初のFOMCで、パウエルFRB議長は、ディスインフレーション(脱インフレ)がいよいよ始まったと宣言した。インフレ減速傾向は明らかで、今後はタイムラグを伴う金融政策の効果を見極めつつ、利上げペースも0.25%刻みに縮小すると明言した。最後の難敵は労働集約的なサービス産業の頑固な価格上昇傾向(コア・サービス)にあり。日本流に言えば、敵は本能寺、と檄を飛ばした。
ところが、その後、2月10日に、ウオール街の殆ど全員が唖然とした雇用統計サプライズに見舞われた。0.75%利上げという劇薬4回連続接種を含む、過去最速利上げでインフレ抑制に挑んだが、それでも月次の新規雇用者数は51万7千人、失業率は上がるどころか、3.4%という歴史的低水準。しかも、22年12月分の雇用者数が、22万3千人増から26万人増に上方修正された。3か月平均で評価するFRBには、この修正が最大のショックであったとされている。
更に、14日に発表のCPIは、下落傾向なれど、絶対的物価水準が、まだ異常に高く、月次の下落率も逓減傾向が見られた。
翌15日には、小売売上高が前月比3%増と、事前予想を上回った。GDPの7割を占める個人消費が、まだまだ堅調で、引き締め効果を相殺している現実が露わになった。
利上げ耐性が強い米国国民性の表れか。
そして昨日は、PPI(生産者物価指数)が、これも事前予測を上回り前月比0.7%を記録した。
更に、先行労働指標として重視される新規失業保険申請者数が、19万4千件と、前週の改定値より1000件減少した。
「いよいよディスインフレーションの始まり」との号砲をあざ笑うかの如き展開だ。
たまらず、16日にはFOMC内の筋金入りタカ派2名が反撃の狼煙を上げた。
まず、NY時間午前に、メスター・クリーブランド連銀総裁が、前回のFOMCでは、0.5%利上げが望ましいとの強い理由があった、と心中を吐露した。
これを聞き及び、次は饒舌のブラード・セントルイス連銀か、と市場は身構えた。その期待に同氏は答えてくれた。午後の講演での質疑応答で0.5%利上げ支持論を唱えたのだ。
両者とも、前回FOMCでの利上げに関する談話であったが、上述の追加利上げ催促の如きイベントの連続を受け、次回3月利上げは、いよいよ0.5%の現実味が増す。
ターミナル・レートも5%台前半で市場予測がFRB予測を上回ったとされている。
前回のFOMC時には、市場の予測のほうが約70bp低かったので、この1週間で、FRB予測を追い越してしまったわけだ。
FOMC参加者の最新金利予測は、次の3月FOMC時に発表される。
なお追加利上げ回数だが、市場は3月、5月利上げに当確を打ち、6月が「ワイルド・カード」とされ五分五分の確率と見られている。
市場が期待していた年内利下げ転換は、現状でほぼ消えた。全滅危惧種扱いの12月利下げ論者が孤軍奮闘している。
今後の注目イベントとしては、やはり、中国経済再開が、米国インフレ率に与える影響が注視される。中国経済の総需要増加というインフレ要因と、ゼロコロナ政策により供給サイドの目詰まりが解消されることのインフレ低下要因の二面性がある。
メスター氏も、ウクライナの地政学的要因とともに、要経過観察と明言している。
なお、スーパーボウルの国民的興奮未だ冷めやらずの雰囲気ゆえ、メスター氏は講演の最初に、インフレに「勝って勝利するのみ」(In It To Win It)と静かな決意表明を表現していた。
このような状況で、迷走するインフレ予測に、NY金価格は迷走している。
さて、今日の写真は、パレスホテルのケーキ。
全部食べると、血糖値過多になるから、選ぶのだが、相場の売り買いの決断は速くても、飲食メニューの決断になると、一転、あれにしようか、となりのテーブルを覗いて、あれもうまそう、と「迷走」するのだ(笑)