2,000ドルを目指していた金国際価格が、先週金曜発表の雇用統計後、1,860ドル台まで暴落した。
2日間でほぼ100ドルの下げ幅だ。その雇用統計の全貌と市場の反応を以下に詳説する。


1月雇用統計、新規雇用者数517,000人(事前予測の主流は10万人台)、失業率は3.4%(1969年以来の低水準)。
日本時間2月3日午後10時半に発表された数字に、市場は唖然。
報道する経済キャスターも、「誤報でないか再確認します」と語り、いつもは滑らかな口調のコメンテーターも、言葉を失った。
市場では「blowout」とのスラングが飛び交った。
スポーツ競技で「ぼろ勝ち、ぼろ負け」というニュアンスで使われる表現だ。
更に、追い討ちをかける如く、1月ISMサービス業景況感指数が、2か月ぶりに好不況の境目である50を超え、55.2をつけた。
サービス業といえば、FOMC記者会見で、パウエル議長が、最も価格が下がりにくい業種として「コア・サービス」とまで命名していたセクターだ。
かくして、FOMCと米メガ・ハイテク企業決算に波乱万丈となっていた先週の最後の最後に、とんでもないちゃぶ台返しが待っていた。
今回のFOMCのキーワードとなっていた「利上げ鈍化」「ディスインフレーションの始まり」が冷や水浴びるどころか、表層雪崩で埋没寸前の感がある。
「FOMCやり直しだ」との、投げやり的な呟きも聞こえてきた。
パウエル議長も、ツキに見放された感がある。
今回のFOMCでは、珍しくハト派寄りのコメントも語ったことが市場の話題になっていたからだ。
FRBの基本姿勢は常に「データ次第」で、一回の統計数字で変わることはなく3か月平均値が重要視されている。
それにしても、市場の合言葉が「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」に変わりつつあるなかでの出来事だけに、パウエル氏の心中を察するに余り有る展開だ。
注目の「FRBと市場の認識ギャップ」に関しては、FRB側の到着金利予想値が5%台で更に切り上がり、市場の予想値は5%台に接近しつつある。
その差が20bpほどだが、振れの大きな数値なので、今週は日々、コロコロ動きそうだ。
パウエル議長は今週講演が予定されているが、このサプライズをどのように解説するのか。
FOMC開催日までブラックアウト期間ゆえ発言が控えられていたFRB高官たちも、ムズムズして持論を語る機会を待ち受けているであろう。
最近目立ち始めたFOMC内部の「亀裂」も露わになりそうだ。
具体的には、あと1~2回と見られていた利上げ回数が3回以上とか、0.5%利上げ復活説とか、到着金利も、5%をやや上回る水準から5%台半ばへ引き上げとか、総じて政策金利上昇バイアスが強まろう。
対して、市場側の反応だが、こちらは、おいそれとFRB側に寄ってゆく姿勢は感じられない。
年内利下げ観測が後退するとも考えにくい。
それほどにFRBへの信認が薄れつつある。1月雇用統計でも、平均時給が前月比0.3%上昇と前月の0.4%から伸びが鈍化したことを評価する動きが目立つ。
労働参加率が前月の62.3%から62.4%へ上昇したことも、健全な変化とされる。
雇用統計発表当日の市場初期反応としては、NY株価は下落したが下げ幅は限定的だ。
米債券市場では、4.1%台まで下落していた2年債利回りが4.2%台半ばまで上昇。10年債は3.4%台から3.5%突破。
たしかにドル金利は上がったが、これも上げ幅は限定的だ。
但し、ドルは急騰、円と金は急落した。
こちらは、短期投機筋の見切り手仕舞いが効いている。
次期日銀総裁に関する報道も132円台で円安方向への動きを加速させた。


さて、これで、どうなる国際金価格。
基本的に上昇基調が崩れたわけではない。
損切りの売りが一巡すれば、1,900ドルの値固めに戻るであろう。
但し、筆者の想定より2~3か月程度は遅れそうだ。
なお、筆者の相場観を産経新聞が一昨日の土曜朝刊で以下の大ぶりの記事に纏めてくれた↓

 

https://www.sankei.com/article/20230203-V2DYIIL4KBL5PMGNEULXA5R33I/