マネー収縮の時代を象徴するクレジットイベントだ。
ゼロ金利・量的緩和全盛の時代には、「過剰流動性相場」「なんでも上がる相場」と言われた。
その典型が仮想通貨であった。
しかし、FRBのQTによりマネー収縮の時代に移行するや、それまで「カネ余り」で覆い隠されていたリスクが次々に露わになっている。
バフェット氏は「マネーが引き潮になれば誰が裸で泳いでいたか分かる」と予言していた。
裸で泳いでいたことが露見した事例として、英国年金危機、クレディ・スイス財務不安によるCDS保証料率高騰、「SPACの帝王」と言われたカリスマの破綻、そして仮想通貨市場。
今回の仮想通貨破綻劇に関して、マーケット感覚で最大のリスクはトレーダーがレバレッジをかけられる取引所のシステムだ。
自己資産の範囲内で売買していれば、損失も自己資産損失に限定される。
しかし、レバレッジを使った瞬間に、1人のトレーダーの損失が、売りの連鎖に波及して、破綻のドミノ現象が生じる。
しかも、今回破綻した仮想通貨交換業大手のFTXの投資会社であるアラメダリサーチ社は、FTX社が発行するトークン(電子証票)であるFTTを自社バランスシートに組み入れていた。
これでは自社株を担保に銀行融資を受けるごとき事象が可能になる。
しかも、その額が1兆円近い。


FTXといえば、一世を風靡して、他の仮想通貨業者の救済役も演じてきた。
仮想通貨の「白馬の騎士」とも言われ、30歳のCEOフリード氏も時代の寵児となった。
ソフトバンク、ブラックロック、シンガポールの政府系ファンド・テマセク、更にカナダのオンタリオ州年金基金まで出資した。
PR活動も活発で、大坂なおみ選手や大谷翔平選手までFTXの大使役を引き受け、話題になった。
今や、その事実が話題になっている。
筆者も大ファンである大谷選手が仮想通貨業者の大使役とのニュースに接したとき、マーケットのプロとしてレピュテーション(評判)リスクの危うさを直感したことが鮮明な記憶として残っている。
結局、FTXのフリードCEOは、ライバルでもあるバイナンス社の支援を仰いだ。
しかし、アラメダ社が巨額のFTTをバランスシート上で保有していたことが発覚するや、バイナンス社は早々に支援を取りやめた。
その瞬間から一般顧客の投資家たちによる「取り付け騒動」が勃発した。
今更のように「不透明性」が指摘される。
当然、SEC(米国証券取引委員会)もCFTC(米国商品先物取引委員会)も監視を強化すべく動き始めている。
しかし、時既に遅し。
ブロックチェーンのテクノロジーはホンモノであるが、異なるブロックチェーンでも通用するトークンは「証票」であり、クレジットリスクがあったことが盲点でもあった。
トークン価格の暴落が命取りになったのだ。


9日のNY市場でも、中間選挙開票速報は上の空で、もっぱら仮想通貨破綻劇が注目され、リスクオフムードが支配した。
安全資産とされる米国債や金に逃避マネーが流入する局面もあった。
NY金は1,700ドルの大台を維持した。


次に発覚する裸で泳いでいたスイマーは誰でどこにいるのか。
銀行監督当局の管轄外であるシャドーバンクか。
簿外取引で何か市場が知らない事例があるのではないか。
市場の疑念は深まるばかりだ。


早速YouTube 豊島逸夫chに配信して解説した。
大谷翔平、大坂なおみ選手も大使役、大手仮想通貨業者破綻の衝撃